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ある夜更け。
今日は月も顔を覗かせない。
リクガメが語ったことを忘れられないでいた。
忘れられるわけがない。
むしろ経験したことのない人生が自分の中に溢れ出ていくようだった。
しかし、それは決して気持ちの悪いものではない。
むしろ心地よく、今まで経験したどの愛よりも深いものであった。
しかし、その現実に塞ぎ込みがちになり毎夜涙を流していた。
「豊虫…。俺、お前と…友達でいられんのかな…。」
真っ暗に塞ぎ込んだ部屋で頭まで布団を被り涙を流す。
自分にもまだ流せる涙があることに感謝しつつ本人に伝わらない謝罪を繰り返す。




