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博愛国家  作者: りとかた
第12章 父の魂
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7

「おかしいんだよ、俺。呼ばれてるんだ。行かなきゃ。」


1人でぶつぶつ言いながらまた山に入っていく。


初めて禁足地に案内された時は1人で帰れないと思ったのに今は糸を引かれているように突き進む。


枝葉が体を掠めていても全く気にしない。

森はまるで駿馬にこれ以上進んではいけないと邪魔をするように彼の体にぶつかり続ける。


それでも歩みは止まることがない。

月は山を飲み込み始めているかのように大きく山を包まんとしている。

月が暗躍して駿馬を動かしているように見えるくらい不思議な光を放っていた。


程なくして禁足地が目の前に現れる。

駿馬は迷いなく止まらず進み続ける。

しばらく進むと木々が消え草花も生えぬ赤い大地が広がっていた。


その地の真ん中に立つと膝をつき一心不乱に土をかき出す。

赤く染まった土は鉄臭く、その正体が何であるかはなんとなくわかっていた。


「大丈夫だ…お前の兄貴は俺が助けるから…もう安心して眠れよ。」


手が柔らかいものに当たる。

ボロボロの布切が表面に見える。

その周囲を丁寧に素手で掘り進める。


姿を現したのは衰弱し切った人間の赤ん坊のようなもの。

もう一つは異形の形をして人の顔のようなものを持ちながら目が複数個、口は横に開き牙を湛えている。


「お前が…呼んでたんだな…。もう大丈夫。俺が助けるから…兄貴はもう大丈夫。」


抱きかかえた2つの塊を優しく抱きしめる。

目からはいつの間にか涙が溢れていた。


「ごめん…お前らのせいじゃない。俺が悪いんだ…。でもさ…会いたかったなぁ…。俺さ、子供が生まれんだよ…。妻もいる…。大好きなんだ…。子供のこともきっと好きになる…。」


そこまで言って鼻を啜ると二つの塊を見つめる。


「助ける代わりって言っちゃなんだけどさ…。身勝手なんだけどさ…。俺の息子が困ってたら助けてやってくれよ…。できたらでいいんだ、できたらで…。」


駿馬は体から力が抜けていくことに気づくと坐ってもいられなくなり抱えたまま倒れ込む。


「ああ、そうだ…。名前…名前教えないと…助けたくても…助けらんないよな…。」


抱えてられなくなった駿馬は2つの塊を優しく据える。


「兄貴に伝えてくれよ…。息子は…豊虫…。きっといいやつだ…。友達に…なってほしい…。きっと…きっと…。」


駿馬は最後に言葉にならない呟きを放ち消える。

異形の塊も最後に兄に手を添えると吸い込まれるように消えていく。


満月が煌々と照らす山の中。

その場所だけは暗く重い空気を醸し出し赤ん坊の泣き声だけが響いていた。


そしてその泣き声に呼応するかのように遠くの街でも赤ん坊が泣く。

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