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動物たちの心を掴んだ駿馬はその後いろんなことを話した。
今までの生い立ちや関わってきた人間、動物たちの話。
悪い動物、人間も含めいろんなものに騙されたこと。
しかし最後には必ずと言っていいほど皆と仲良くなっていったこと。
動物たちは人間への興味や憧れが多少なりともある。
それゆえに大人も子供も聞き入っていた。
「今日はこんなもんかな。てか、話しすぎてもう次回話すことなくなっちゃったよ。」
そう言って笑うと動物たちは「バカで〜。」「考えなしなのは今もなんだね。」などと言って盛り上がった。
それを満足そうに眺めていた駿馬は動物たちの奥に見えた岩のようなものを見かける。
「よし!じゃあ、悪いけど今日は終わりだ!またネタができたら話すから。さいなら〜。」
駿馬は小走りで森の中に消えた岩を追いかける。
その後ろでは動物たちはまだ帰らず、それぞれ先はどの話の感想などを言い合っていた。
走って森の奥に入っていく。
木々や草がまるで彼を避けているかのように真っ直ぐ突き進む。
駿馬は息が少し上がっても走り続けていた。
さっきの岩のようなものはまだ遠くへ入ってないはずだと。
「どこいくんや。」
不意に背後から声をかけられ駿馬は急ブレーキをかける。
「なんだよ、ほんと足がはえーカメだな。どんだけ走らせんだ。」
「ふん!お前が勝手に走っとっただけや。それに俺はカメやない。リクガメや。」
駿馬は息を整えるために腰に手を当てて深呼吸する。
息が整うと明るい笑顔でリクガメを見る。
「どっちでもいいじゃねえか。てか種族名じゃなくていい加減名前を名乗れよな。」
そういう駿馬をバカにするようにリクガメは歩き出す。
「そもそも名前は識別するためのもんや。この山にリクガメは俺しかおらんのになんでわざわざ名前つけなあかんねん。」
「そういうことじゃないだろ?名前ってのはちゃんと大事なもんだって。なんなら名付けの天才、駿馬さんがつけてやろうか?」
リクガメはため息をついて進み続ける。
「名付けといやぁ、おまえ。子供ができるんやろ?帰らんでええんか?」
痛いところを突かれたと言わんばかりに駿馬は首を傾げて頭を掻く。
「そうなんだよなぁ。もう無責任な自由男じゃあいられないんだよ、おれ。」
「そう思うんなら帰ってやれや。子供がグレても知らんぞ。」
「そうことはそんな単純じゃないんだな、これが。」
駿馬の言葉にリクガメは足を止めて振り向く。
「なんだ?子供が怖いのか?それとも親になるのが怖いのか?」
「そういうことじゃナッシング!ちがうんだよ。子供ができるのは嬉しいし結婚はしてないけど妻にも会いたい。だけどさ、彼女が俺の好きな理由知ってる?」
「はん!知るわけないやろ。人間の趣味なんてわからんわ。」
そういうリクガメを見て駿馬は得意げにそして綺麗にターンを決める。
「そ、れ、は!俺の自由さ、奔放さ、身勝手さなんだってよ。」
それを聞いたリクガメは明らかに嫌な顔をする。
「なんや?その女。気持ち悪い。お前は何が良くて番ったんや。」
「全部!こんな自由な俺を許してくれるところも、俺のことを好きでいてくれるところも。」
リクガメは理解ができないと言った様子で前を向き直し歩き出す。
「くだらんことを聞いたわ。アホ同士お似合いや。ただ、そんな親やと子供が可哀想や。」
「ご心配ありがとう、カメ。でも大丈夫。妻は男を見る目はないけどこんな俺を相手にするくらい面倒見はいい。俺がいない方がよっぽど悪影響だよ。」
それを聞いたリクガメはニヤついた顔で振り向く。
「そら間違いないわな。百害あって一利なしや、お前なんか。」
「そこはさ、そんなことないって言おうよ。嘘でもさ。」
リクガメは乾いた笑いを森に響かせて歩き続ける。




