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「おい、坊ちゃん。ここら辺でクマが出る山があるだろう。どこだ?」
豊虫は黙って首を振りながら通り過ぎようとすると肩をがっしり掴まれる。
「待て待て、怪しいもんじゃないって。危険な動物を街に降りないようにする仕事をしてるもんだ。」
そう言いながら怪しさ満点の胡散臭い笑顔を男は豊虫に向ける。
「ここら辺に動物なんて降りてきませんよ。仕事しにくる場所を間違ったかもしれませんね。」
精一杯取り繕いながら言葉を紡ぐ。
この男にこれ以上関わりたくない上に本当にマタギなのだとしたら早いこと街を出て欲しかった。
「嘘はいけねえよ。坊ちゃん、あんたからは獣の匂いがプンプンする。ついさっきも…そうだな…これは鳥だ…サイズも大きい…しかし雑食だなぁ…トンビにあってきたな?」
豊虫は驚きよりも匂いを嗅がれそれを分析されたことに対する嫌悪感でいっぱいになる。
「やめてください、本当に気持ち悪いです。警察呼びますよ?」
「おいおいおい、特技を披露しただけだろ?なんだい?セクハラってのかい?男同士でも成り立っちまうのかあれは。世知辛い世の中だねぇ。」
そう言ってぼやく男を豊虫は無視しててを振り払い通り過ぎる。
「でも、ほんと嘘はいけねえな。あんたからはクマの匂いも僅かに残ってる…いるんだなぁ?あいつが。」
豊虫はその言葉に足を止めて振り返らずに聞く。
「あいつ?まるで誰かを追ってきたみたいですね?あなたは動物を追い払う人でしょ?」
それを聞くと男はクックックと笑いを殺しながら豊虫の肩をまた掴み振り向かせる。
「よく見ろ、坊ちゃん。この顔はクマを取るから熊取なんてシャレでやってんじゃねえぞ?これは正真正銘の隈取だ。俺のクマへかける闘争から浮かび上がった証だ。その闘争に勝ち続け殺し続けたものにだけ現れるんだよ。」
男の勝手な物言いに豊虫は胸の奥から沸々と怒りが湧き上がる。
「ふざけるな!あんたは平和に暮らしている森の連中に恐怖を与えて無駄な闘争を起こしてるだけだ!そんな立派なもんじゃない!」
男はさらに不敵な笑いを深めると
「そうかそうか、お前はクマと親しいんだな。だが奴らはそんな立派なもんじゃない。畑はあらすし無意味に人を襲う。そんな奴らは俺が殺してやらねえとな。」
豊虫の肩に置かれた手にギリギリと力が入る。
痛みに顔を顰めながらも怒りに身を任せ膝で蹴り上げる。
高く上げた膝は見事に金的を決めると男は崩れ落ちる。
「変質者!ここに変態がいます!助けてください!」
その叫びを聞き民家から顔をのぞかす人が現れる。
男はうめきながら股間を押さえて急ぎその場を去ろうとする。
「坊ちゃんや。覚悟しとけよ。お前の友達はお前のせいで場所がバレて死ぬんだ…!」
そう一言吐き捨てると一目散に逃げ出す。




