表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
博愛国家  作者: りとかた
第1章 動物たちの集い
4/59

4

豊虫は彼女を見るとポーッとしてしまいのぼせた気分になる。


ふわりふわりとした気分になっているのは豊虫だけではない。

他の動物たち皆が一心不乱に彼女を見つめている。


先生は一通り観衆を見渡すと豊虫に目を留め微笑む。


そう感じたのも豊虫だけでないのだろう。

皆の目がうっとりとしている。


肩に何かが当たる感覚で豊虫は我に帰る。


「チチチ、また当てられてんのかい?ホウチュンも懲りねえやつだ。」


寺嶋が笑いながら肩に止まり軽く豊虫の頬を嘴で突く。

いつの間にか豊虫の後ろにはひぐっさんも大股を広げ豊虫の後ろから足を広げて回している。


豊虫が守られているような安心感を感じていると、襟の後ろを爪でぐいと引っ張られひぐっさんにもたれかかる。

毛はチクチクするが不思議と心地よい。


寺嶋も豊虫に体をもたれかけている。


「気にするな。俺たちも当てられちまうんだ。同じ種族なら尚更そうなるさ。」


そう言って肉球を豊虫の頭に当てて撫でる。

柔らかいが髪が引っ張られる感覚に少しの不快感を覚えながら心地よさも感じる。


「そんなんじゃないですよ。綺麗な人だから…。」


「チチチ、それがもう当てられちまってんだよ。」


最前列でそんな会話をする3人を面白くなさそうに先生は見ている。


「あら、私をまるで淫魔か何かのような扱いですね。」


そういうとひぐっさんは慌てて両手を前に出し、振って否定する。


「とんでもない!先生がまるで別世界の生き物に見えるからホウチュンじゃ釣り合わねえって…」


トトトとヒールを鳴らしなが豊虫たちに近づきひぐっさんの口に手を当てる。


「ふふふ、言い訳しなくてもいいわ。からかっただけよ。」


先生の目線から外れるとひぐっさんは安心したかのように大きく息を吐く。


「私が話したいことはホゥ爺がほとんど話してしまったわ。」


「これは失敬。」


ふふふと口を隠しながら笑う先生に豊虫はうっとりする。


「まあ、いいわ。」


先生はパンと手を打つと元々静まっていた観衆だけでなく森のさざめきすら静かになっていた。


「ホゥ爺の言うように先の動物たちによって法は人間だけのものに。森のルールは動物だけのものに。」


静まり返った森に先生の声がゆっくりと響き渡る。

豊虫の座っている前にしゃがみ込むと彼女は目を細めて微笑みかける。


「ね、豊虫くん。動物は弱肉強食がルールよね?だから殺されるし食べられることもある。」


「はい。」


「人間はそんなことしたら捕まっちゃうわよね?じゃあ、動物が人を殺したら?その逆は?」


そう問われると動物たちはざわめき出した。


「それは…しょうがないだろう。」


「俺らも生きるためだし殺されたくもないしな。」


先生は立ち上がると微笑みを消していた。

その際目を見た寺嶋は目に虹彩が見られないのは気のせいだろうかと息が苦しくなる。


「そうね。人間と動物はなんとか割り切ることにしたの。動物の行いは自然の行い。同族同士の殺しがタブーになることが共通している動物も多いから。時間はかかったけどなんとか今は割り切れるようになった。」


酸素が薄く感じる。

先生の美しさは変わらないが怖さを感じる。

美人は冷たく見えると言うが本当に温度が下がったような感じがする。


「でもね、やっぱり割り切れない動物っているものよ。特に人はね。身近なものを殺されたら仕返ししてやろうってて。報いを受けさせてやるって。恨みは恨みを呼ぶって言うけど野生の勢いのまま生きていた動物たちはそんな人間たちに大抵殺されたわ。」


皆呼吸も忘れているのではないかと思うほど音がなく、凍りついたように動かない。


不意に目を細め笑顔を見せた先生に場の緊張の糸がぷつりと切られる。

わいわいと周りの動物たちが話し始める中、豊虫はひぐっさんに大事に抱えられ寺嶋は仁王立ちするように彼の前を陣取っていた。


「ふふふ、でもその恨みつらみによる淘汰によって乱暴者は消えてそう言う問題が起こりにくくなったのも事実よ。彼らもまた時代の立役者ってことね。」


一気に緩んだ雰囲気を楽しむように見渡しながら微笑む先生は今度は柔らかさと美しさを持っていた。


「今日はおしまい。今度はもっと明るい話をしましょ。ホゥ爺に釣られてちょっと暗い話をしちゃったわ。」


そう言って振り返るといつの間にか先生の背後に待機していたリクガメに座る。

彼は足が遅いくせにいつも気づいたらそこにいるのだ。


ゆっくりとリクガメに揺られながら先生は振り向くことなく手をひらひらと振ると森に消えていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ