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トビーは服部の話す声がまるで春の終わり頃にようやくちゃんと鳴けるようになったウグイスのように綺麗なものに聞こえていた。
「私ね、大学生なんだよ。わかる?子供の頃は大学生の人なんてすんごい輝いて見えてたのに現実はこう。」
そう言ってトビーを振り返り服部は自分を指差す。
「こうって?」
「ふふ、毎日バイトばっかりの苦学生でーす。」
そういうと楽しそうに微笑む。
トビーも釣られて微笑み
「俺には素敵な女の子しか見えなかったよ。」
とキザなことを言ってから顔を真っ赤にする。
幸い羽毛に覆われた肌は顔色を見せないのでバレない。
「なにそれ〜。でもありがと!」
振り返る彼女は髪を目にかけながら楽しそうにしている。
口に入ってしまった髪を丁寧に引っ張りながらコロコロと笑う。
突然雷のように不快な音が響く。
「カーカカカカカ!」
その声に驚いて服部は周囲をキョロキョロする。
声の正体におおよその予想がついているトビーはため息をつく。
「カカカ。見ろよ、田舎もんがいじめられて人間に泣きついてるぞ。ハッシー。」
「カカカ、あらやだほんと。見すぼらし鳥が人間なんかに手を引かれてるわ。」
嫌味ったらしく人の悪口を言うのはいつぞやのカラス達だ。
「お前らは本当に小物だな。寺嶋さんがしばらく忙しいと見るなり騒ぎ出しおって。」
それを聞いた二匹のカラスは捲し立てる。
「ふん!あんなおいぼれ、誰も気にしてないわ!」
「そうよ!もうろくとしたジジイなんて誰が怖がるのよ!」
明らかに気にしている様子に呆れてトビーは服部に話しかける。
「ごめん、服部。無視していこう。あいつらは相手にするだけ無駄だよ。」
しかし服部の反応はない。
見上げるとその顔は険しく思わず後退りしてしまうほどだった。
「トビー、ごめん。私我慢できない…。」
トビーの手を離すとぱっと勢いよく一歩前に出ると大声で怒鳴りつける。
「あんたたち!ぐちぐちぐちぐち…何がしたいのよ!嫌がらせをしたいだけ?バカなんじゃない?いるのよね、人を傷つけるだけ傷つけてその様子を楽しむバカって!はっきり言ってサイテーよ!あんたたち!」
とんでもない勢いにカラス達は電線から落ちそうになる程であった。
トビーすら勢いに押されていた。
鼻息荒く肩で息をしている服部だけが時間の流れにいるように誰も身動きを取らない。
服部は振り向くとトビーの翼を取る。
「行こ!トビー。あんな奴らに構ってる時間がもったいない!」
それは自分が先に言ったことだと内心思いながらトビーはただ頷く。
その様子を見てようやくカラス達は我に帰る。
「な、なんなの。あの女!」
「ま、全くはしたない女だよ。行こう、ハッシー。君に移るとよくない。」
それを聞いた服部は振り返りキッとカラス達を睨む。
それにたじろいだカラスはすぐさま飛び立って逃げる。




