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2人で泣き笑い、謝る。
謝ってくれたことに感謝して今まで話せなかったことをお互い一気に放出していく。
リクガメは黙って目を瞑って甲羅に身を任せていた。
「リクガメ様、こんなとこにおいででしたか。」
「おお、久しぶりやな。蒲田津。何年ぶりや?」
いつの間にかリクガメの近くに来ていたカマキリは小さく首を振る。
「申し訳ありません、リクガメ様。先代はあなたへの最後の挨拶をすることも叶わず還りました。私は蒲田津の子の1人であります。」
リクガメはカマキリを見つめていた目を空へ向ける。
「そうかそうか、あいつもとうとういきおったか。短い付き合いであったがほんに気の許せるいいやつであった。」
カマキリは丁寧に頭を下げて話す。
「父は寂しがり屋のリクガメ様であればきっと私の死を悲しむであろうと仰っておりました。しかし、その必要はないと。」
それを聞いたリクガメは自嘲気味に鼻を鳴らす。
カマキリはその反応を見て続ける。
「生涯最愛の伴侶と出会い。子には会えんが私の魂は子たちに宿っている。よければ私の別れた魂たちを見守ってはくれませぬかと。これが最後に母が聞いた言葉です。」
リクガメはもはや真上を見ている。
いや、目を瞑っていることから見てはいないだろう。
「そうかそうか。贅沢なやつめ。万年生きるオラを捕まえて仲良くしてやったことでは飽き足らずお前の分かれた魂まで見守れってか。ほんま贅沢なやつだ。」
リクガメは乾いた体を震わせて静かにカマキリを見つめる。
「だが、お前は最後の最後まで幸せだったんだな。」
それを聞いた子カマキリは謝る。
「申し訳ありません。必死に私たちもあなたを探したのですがなかなか見つからず我々が大人になるまでかかった次第であります。ほんとに遅くなり申し訳ありません。」
リクガメは首を振り
「ええ、ええ。仕方ない。おめたちは地を這う生き物。オラは神出鬼没のリクガメ様。元々交わることが難しい縁だ。にもかかわらずその話をしにきてくれたことに感謝する。しかし、いかんな。あんまり長生きしすぎると他の生き物もオラと同じくらい生きるものだと思ってしまう。」
一瞬カマキリを見たトンビであったがすぐさままた上を向き
「すまんが、しばし空を見る。おめもゆっくり景色を見ていてくれ。」
リクガメは橙に染まった空と闇に染まる空の境界線を探す。




