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母、小豆は豊虫を落ち着かせ鈍く痛む腰をさすりながらリビングに行き戸棚の前に立つ。
立てかけてある写真に向けて口を開こうとして止める。
息子が昔から人間の友達より動物の友達が多いことを小豆は知っていた。
動物に偏見があるわけではないが人間の友達よりも動物の友達が多いことがあまりいいことと思えないのには理由があった。
豊虫は父を知らない。
父の名前は駿馬という。
小豆からは小さい頃に死んだと伝えられており家には写真が飾ってあった。
彼女がその写真に手を合わせるのを何度も見た豊虫はなんの疑いをもつこともなく、時々父に手を合わせていた。
しかし、小豆は嘘をついていた。
駿馬とは結婚もしておらず豊虫を身籠った頃にはどこかへ消えていた。
元から自由な気質の彼は動物に愛されていた。そして彼らの暮らしに憧れ感化されていた。
そんな奔放さに惚れていた小豆はそんな勝手なことをされても駿馬をもっと好きになっていた。
しかし、そんな勝手な父だと息子に伝わってしまえばきっと息子は父を軽蔑する。
小豆は愛している駿馬を息子といえど悪く言ってほしくはなかった。
そうして愛ゆえの嘘をつき、息子を騙していた。
その罪悪感は消えないが愛した男を愛する息子が悪くいうよりはずっと良かった。
「あの子も、やっぱりあなたの子供よ。」
そう言って小豆は駿馬の映る写真の縁をなぞる。
「私もあなたたちと同じ道を歩けたらな…。」
声に出すつもりはなかったが思わずこぼれてしまう。
「また、私は愛した人を動物たちに奪られちゃうのかな…。」
天井近くの小窓から射す弱々しい月光が母の頬を照らす。




