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「お嬢さん。こんなところで何をしてるんだい?」
「うふふ、迷ってしまいました。綺麗な蝶がいたもんだからつい追っかけてしまって。」
森よりも野原の方が似合いそうな黄色いワンピースと鍔広の帽子を被った少女はクマ相手に物怖じをしない。
「なんだい、お嬢さん。もっと驚くかと思ったのに…つまらない子だね。」
「だってあなたは悪いクマさんじゃないわ。見たらわかるもの。それにもし襲われても私のクマが助けてくれるわ。」
彼女の言葉に目を丸くしながらクマは聞く。
「君はクマを連れて歩いてるのかい?」
少女はおかしくてたまらないと言った様子で笑う。
「そんなわけないじゃない。人間はクマなんて大きなもの飼わないわ。私のお友達のわんちゃんよ。彼女ならあなたでも倒してくれるわよ。」
クマは低く唸るように笑う。
「それは敵わないな。なら君には手を出さないで大人しく引き下がるとしよう。」
そう言って背を向けて山へ帰ろうとするクマに駆け寄って抱きつく。
「待ってクマさん。あなたは優しいクマよね?なら迷子の女の子を見捨てたりなんかしないはずよ。」
抱きつかれたクマは困惑しながら少女に向き直ろうと回る。
しかし、ピタッとくっついた少女が同じように回るので一向に彼女を見ることが叶わない。
しばらく2人でクルクル回っていると少女は嬉しそうにキャッキャっと楽しんでいる。
クマはそんな彼女を見ながら心が解かれる気分になる。
森には2人の笑い声だけが響き渡っていた。




