第2話:敵将と上司とお昼のメッセージ
斉藤は午前の会議が終わるや否や、思わず天を仰いだ。
(やっぱり、あれ、絶対おかしいって……)
さっきの会議中の三枝課長の発言が、ゲーム中の敵将Strahlの台詞と**一致率95%**だった。言い回し、語彙、冷静な口調、すべてが“あいつ”と同じ。
しかも「夜の戦略シミュレーション」って、どう考えてもゲームのことだ。
そんな中、田所から昼休みに軽快なチャットが飛んでくる。
「副官、副官〜!昨夜のStrahlの“あの”台詞、録画しといたんで送っときますね!」
斉藤のスマホに送られてきた音声。
「無駄な抵抗は好きよ。策の網にかかっていく様を見るのは、少し癖になるわ」
(うわ!課長の声……にしか聞こえない!!)
さらに田所は続ける。
「あ、あとオフ会どうします? 今度、東京でギルドメンバー集まるって」
「俺、絶対Strahlさんとサシで話したいっす!恋するかもですわ〜」
(やめろ、今それどころじゃねぇ)
午後、斉藤が資料をまとめていると、三枝課長からチャットが届く。
「斉藤さん、今日の進捗報告、少しだけ“攻め気味”にお願いしますね。油断を誘う感じで」
(なんで仕事で“油断を誘う”って使う!?)
心拍数が上がる。ここにきて確信に近いものがある。
この人、Strahlだ。間違いない。
そんなとき、田所がまた爆弾を投下してきた。
「てか副官、課長の声とStrahl、似てません?」
「俺ちょっと、課長=Strahl説あると思うんすよね〜!」
斉藤は飲んでいたコーヒーを吹いた。
(おまえ、それ、もっと早く言ってくれや!!!)
夕方、三枝課長から再度のチャット。
「斉藤さん、今夜の“戦略会議”、楽しみにしてますね。録音とかしないでくださいよ?」
なぜか絵文字は“ウインク”。
(……お、俺は今、仕事と戦争のどっちで命を削ってるんだ?)