忘れ物
「しまっったぁあああああ」
一家団欒しているリビングにその声は響き、父や母は驚きの目でこちらを見ていた。
父
「どうしたんだ?」
ビール缶を傾け口に運びながら父は話しかけてきた。
僕
「体操服を、、わ、忘れました。」
普段なら1日くらい置きっぱなしにしても問題ないが、明日は修学旅行で朝6時に学校とは違う場所での集合があり、今日だけは忘れ物をしていけない日だったのだ。
母
「呆れた、、ほら、お父さんはお酒飲んじゃって運転できないんだから、さっさと取ってきなさい」
僕
「えぇ、もう21時だよ?夜遅いのに1人?」
母
「いいから、あんたが悪いんだから!さっさと行く!!」
急かされながら僕は自転車にまたがり、いつもは外に出ない夜の帷が降りた道を学校へ漕ぎ進めた。
小学5年生の僕には21時の暗さも怖いが、怒りに満ちた母親に比べれば幾分マシだった。
学校へ着くと門が閉まっておりアタフタと困っていた所に警備員さんが通り、事情を説明すると中へ入れてもらえた。
警備員さんの巡回を待てば一緒に教室まで来てくれるらしいが、帰りの時間が遅くなる方が嫌だったので教室まで1人で行く事にした。
そうは言っても夜の学校なんて怖くないはずがなく、点けれる灯りは全部点けながら歩を進める事にした。
5年生の教室は東棟の3階であり、僕の教室は階段の一番近くで少しだけ助かった。
自分の教室へ入ると何故だか少しだけ落ち着きを取り戻し、他の机を覗いたり友達の机にイタズラをしたりする余裕もできた。
自分の体操服が入った巾着袋を手に取り戻ろうかと廊下に出た時に
-ダン-
っと音が鳴った。
警備員さんは1人で西棟を見回っているはずなので東棟には僕1人なはず、というか東棟は見回りを終えているはずだった。
不思議な事に恐怖より興味が上回っており、音が鳴った廊下の奥へ少しずつ足を進めた。
僕
「誰かいるんですかー?」
少し大きめな声で牽制するように言い放ちながら、一つ、また一つと教室を見て回った。
一番端の教室まで来て覗き込もうとした時に
ーーガタガタガタガタガタガターー
と強い音が鳴った。
驚きながらも覗き込んだ僕は肩を落とした。
窓が空いていたのだ
もちろん怖くないわけではないが、お化けのような非科学的な何かが出ると思いながら向かってきた決意に比べたら大したことではなかった。
ため息をつきながら教室へ入り、窓を閉め鍵をかけて警備員さんの仕事をした気分になった。
廊下を歩きながら戻り、階段まで辿り着いた時
ーーーダッダッダダダダダーーー
廊下の奥からこちらへ向かって人の足音がかけてきたのだ。
僕は急いで階段を駆け降りて電気を消し、門まで走った。
門には巡回が終わった警備員さんがおり、今起きた事を全力で説明した。
警備員さんは笑いながら、2度と忘れ物をしてはいけないと諭した後に僕が見回るから大丈夫と言ってくれた。
とにかく、この場から離れたい一心で自転車を漕いで家に向かう途中に一度だけ振り返って学校を見ると、3階の窓からカーテンがひらりと靡いていた。
卒業式の日にわんぱくだった僕達へ校長先生から、ふざけて窓から落ちた生徒がいる話と夜にはセキュリティーで門や扉、窓が開くと警報が鳴る話をされた。
きっと見間違いだったと思う事にした。
忘れ物。
大人になるとしなくなる不思議なるものですね。
でも、たまにしてしまった忘れ物を取りに行く時は注意してください。
誰もいない時間を狙って何かに襲われてあなたが世界から忘れられる、、みたいな話も作りたいところですね。