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エレベーター



「おはようございます!」


 朝のエントランスで爽やかに挨拶をした。

 男の見た目は30そこそこだろうか、パリッとしたスーツに袖を通し、爽やかさな印象を持つ明るめな紺色のネクタイを締め、ムダ毛のないセットされた髪から彼が出来る営業マンだと一目見てわかる。

 対して、挨拶された側も布地が高そうなスーツに高級ブランドの営業鞄を引っ提げ、50代前後とは思えない背筋の張りが只者ではないと伺える。


上司

 「うん、おはよう」


 「最近どうですか」


上司

 「いやぁ、忙しくてね、全部投げ出したい気分だよ」


 「何を言いますか、その手腕ならなんでも余裕でこなせるじゃないですか」


 2人は何気ない会話をほんの2〜3合ほど交わし二手に分かれる際に言った。


 「では、本日もよろしくお願いします。私はまだ役職がない為、こちらですので」


上司

 「そうかそうか、すまないね。私はエレベーターで向かわせてもらうよ」


 そう言いながら、男は階段へ上司はエレベーターへと向かった。

 何も普段の運動不足を補う為に男が階段を使ったわけではなく、役職がない者はエレベーターを使用しては行けないのがこの会社のルールなのだ。


 エレベーターは特段小さいわけではなく、遠目で見る限りは5〜6人はゆうに乗れるサイズ感のため、初めは不快に思っていたが、習慣とは怖いもので今ではなんとも思わなくなった。


 そういえば、今日は心がザワザワする事があるのを忘れていた。

 そう、社長室への呼び出しがあるのだ。

 階層が違う社長室へ向かうために階段をまた登る事を思うと少し億劫だが、小さなため息を吐き男は向かった。


 社長室の前に経つと普段より速く鼓動が波打つのがわかる。

 学生時代の職員室然り、家庭での父親の部屋など、どうしてこのような場所へ入る時は緊張をしてしまうのだろうか。

 意を決してノックをして、部屋に入ると社長の口から当たり障りのない会話のがあり、続け様に告げられた。


社長

 「明日から2課の部長をお願いしたい。知ってると思うが元々対応していた彼が来なくなってしまってね、、急遽だが頼むよ」


社長

 「実はね、、今どき風に心の病と皆には伝えているが、自殺なのだよ。だから引き継ぎが大変だとは思うが、君ならきっとこなせるはずだ」


 突然の情報で少し面を食らいはしたが、役職が上がるチャンスの嬉しさから少し笑顔で了承した。


社長

 「あっ、分かっていると思うが、彼が自殺の事はくれぐれも他言無用で頼むよ?ただでさえ社員の自殺が多いのに神経の図太い役職者まで自殺があったとなると、何かと疑われて面倒だからね」


 言っている事はとんでもない彼に対して、絶対に呪われてるだろうなと思う反面、10連勤は当たり前の会社へ好きで入ったのだから自業自得だろうと思い男は頷いた。


社長

 「それと、明日からエレベーターを使用していいからね。君も立派な役職者だ!」


 「ありがとうございます!これで足腰を痛めずにすみます。

、、、つかぬ事を伺いますが、なぜ役職者だけしか使用できないのでしょうか」


 にこやかな笑顔と共に男は長年の疑問を投げかけてみた。


社長

 「ふむ、昔は自由にしていたのだがね、、エレベーターの調子が悪く、業者を呼んでも直らんのだよ。高い金を払ったが使えないもんだよね、、まぁ、乗る人数を絞るのに面倒だから役職者だけに絞っただけだよ。まぁ、憧れがあった方が頑張るだろうしね」


 思っていた回答とは違ったが、なるほど!と、にこやかな笑顔と共に男は社長室を後にした。


 デスクへ戻る際は普段通りに歩き階段を使用しかけて思い出したかのように笑った。


 (せっかくなら使ってみようか)


 ただエレベーターを使用するだけで鼓動の高鳴りを感じ、我ながらの童心に感心した。


 「チン」という音とともに開かれたエレベーターに乗り込むと、ちょうど朝顔を合わせた上司が手をあげながらこちらへ向かってくるのが見てたので、開くボタンを押して待っていた。

 こちらが待っているのを目視した途端に、ゆっくりとした足取りで上司はこちらへ向かってきた。

 昔から自分勝手というか、、相変わらず揺るぎない自分のペースを持っている人だなと思っている間に上司が乗り込んできた。



 ---ビービービービー---


 2人しか乗っていないが故障だろうか、、『最大積載量1000kg』と表記があり、大体60キロ前後の上司と私を合わせても到底足りるわけがない。

 そうは言っても鳴ってしまった物は仕方がないと男はエレベーターを降り一声


 「不思議なこともあるもんですね、私は急いでないのでお先にどうぞ」


 疲れた顔の上司から苦笑いと感謝の一言をもらい、少し待ってからもう一度エレベーターを呼び、乗り込んでデスクがある階層へと向かい仕事を始めた。


 仕事がひと段落し大きな欠伸と共に背伸びをしながらチラリと窓の外を見ると、夜の帳が下がり切っており、時計の時間は23時を回っていた。

 流石に帰ろうかと誰もいなくなったオフィスの電気を消しふらふらとエレベーターへ向かい呼び出しボタンを押して待っていると「チン」という、高い音と共に扉が開いた。

 

 乗り込もうと両足を踏み入れた瞬間に


---ビービービービー---


 「は?」


 この時間まで働いていたのもあり、苛立ちがそのまま声に出てしまった。

 だが、男にはどうする事もできないので仕方なくポケットからイヤホンを取り出し、私用携帯の電源を入れ階段へ歩きそうとした時に


---ピコン ピコン ピコン---


 珍しく会社のグループメッセージが来ており溜まっていた通知が吹き出した。

 そこには朝や夕方に話した上司の訃報が知らされており、エレベーターを見ると「チン」と高い音と共に1人でに上へ上がっていった。


 





短編ばかり書くつもりなのでまとめてみようかと思いました。

拙い文字ですが、よければ反応や感想などしていただけると嬉しいです。

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