第一話:鋼の男、現る
完璧な令嬢として、誰にも隙を見せず生きてきたリディア。
社交界に咲く華として持て囃される一方、その微笑みの裏には、誰にも言えない“本当の自分”が隠されていました。
そんな彼女が運命の出会いを果たすのは、魔獣討伐隊の凱旋夜会──
鋼のように強く、誰よりも無骨な男との、すれ違いが始まります。
王都で催された、魔獣討伐隊の帰還パーティー。
王侯貴族が集う壮麗な夜会に、フィレア令嬢もまた姿を現した。
白銀のドレスに身を包んだリディアは、完璧な微笑を湛えながら、各貴族に挨拶を繰り返す。
その心の奥で、「はぁ……あと何人残ってるの?」と数を数えていた。
そんな折、にわかに騒がしくなった会場の扉が開かれる。
「おぉ……討伐隊が到着されたぞ……!」「あれが……あの“鋼鉄の熊”か……!」
目に映ったのは、漆黒の軍服に身を包み、鋭い眼光と顔に走る大きな刀傷が印象的な男──
魔獣討伐隊の団長、レオン・クラウス将軍だった。
その厳つい外見と沈黙を守る佇まいは、貴族たちに一歩引かせる迫力を持っていた。
が、リディアは……まさかの第一印象が違っていた。
(……くまさん……? いや、ちが……ごつくてかっこいい……? いや、え、こわ……ちょっと好きかも……!?)
思わず立ち止まり視線を奪われていたその時、バランスを崩した貴族令嬢のトレーが彼女の方へ……!
「──危ないっ」
重厚な声と共に、リディアの細い腕を引いたのは、他ならぬレオン団長だった。
その瞬間、彼女の完璧な仮面に、ほんの少しだけ、素の表情が滲んでいた──
「……ありがとう、ございます……」
「お気になさらず。無事で何よりです」
厳つい表情のまま去ろうとするレオンを、リディアの心が追いかけていた。
──仮面をかぶった令嬢の恋は、鋼の団長の一言から静かに始まった。
第1話をご覧いただき、誠にありがとうございました。
リディアの仮面の裏にある素顔、そして彼女の前に現れた鋼の団長・レオン。
まだ出会ったばかりのふたりですが、これから少しずつ、交わらなかった心が寄り添い始めます。
貴族社会の中で本音を隠し続けてきた令嬢が、果たして自分の気持ちに素直になれる日は来るのか──
次回もぜひ、お付き合いくださいませ。