プロローグ
完璧な令嬢──そう呼ばれ続けてきた彼女には、誰にも見せぬ“もうひとつの顔”があった。
優雅な笑顔の裏で、本当の自分を隠し続けた彼女が出会ったのは、鋼のように無骨な男。
これは、仮面の奥に隠された素顔が、真実の愛に触れて揺れ動く──そんなギャップから始まる、異世界恋愛譚でございます。
ここは、魔法と剣が支配する世界「ラグレイシア王国」。
その中心たる王都で、最も名門と称されるフィレア公爵家には、完璧無比な令嬢がいた。
名は、リディア・フィレア。
優雅な物腰に、非の打ち所のない立ち居振る舞い。王立学園では首席を守り抜き、魔法騎士団の指導教官すら舌を巻く魔法の才を持つ。
社交界においても「微笑みの白薔薇」と称され、その名は貴族令息の心を虜にしていた。
だが──その仮面の下、真の彼女を知る者は、ほんの数人しかいない。
「ひゃあ〜!やっと帰ってきた〜!ふぅぅ〜あ〜疲れたぁ〜〜!お母様のお説教、30分コースだった〜〜っ」
きらびやかな社交ドレスを放り投げ、フリルに囲まれたベッドにダイブするリディアは、外で見せる気品とは真逆の、ふにゃふにゃ系感情爆発娘だった。
ふわふわドレスの海の中で転がりながら、ぬいぐるみに抱きつく。
この秘密を知るのは、幼なじみの伯爵令嬢アナベルのみ。
彼女が願うのはたった一つ。「誰か……本当の私に気づいて、それでも、手を取ってくれる人が現れますように」
そして運命は、ひとりの男を彼女の前へと導く。
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本作は、外では完璧な淑女として振る舞いながらも、家では感情豊かなふわふわ娘として生きる公爵令嬢が、自らの仮面を脱ぎ、本当の自分で愛されたいと願う物語です。
彼女の前に現れたのは、鋭い目と大きな刀傷を持つ、寡黙で不器用な団長。
このふたりの、ちぐはぐで不器用な恋が、少しずつ心を通わせていく様を、どうか温かく見守っていただけましたら幸いです。