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第8話 良い職場の三要件

書き溜めが尽きるまでしばらくは毎朝更新します

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 良い職場の三要件って知ってるかい?

 1.良い待遇

 2.良い同僚

 3.良い仕事


 1番目は説明する必要もないよね。お賃金はとっても大事。福利厚生も大事。嫌な仕事であっても、嫌な同僚がいても、お給料が良ければ大抵のことは我慢できる。


 2番目もとても大事。職場は自宅の次にーー下手すると自宅よりもーー長い時間を過ごす場所なのだから、一緒に働く人達が良い人であり関係も良いことがとても大事。賃金が低くて仕事内容がつまらなくても、同僚が良い人であれば耐えられてしまう。


 3番目は仕事のやり甲斐につながる話だよね。高潔な仕事、世間からの評価が高い仕事、自分のやりたい仕事。仕事内容が社会や他者や自分の評価基準に合致していれば、賃金が低くて、同僚が嫌なやつであっても頑張れるんだ。


 さて。今まで長々と話してきた良い職場の3要件だけど、皮肉なことに条件をひっくり返すとそのままブラック職場の三要件になるんだよね…。

 すなわち、悪い待遇、悪い同僚、悪い仕事。


 今のところ、僕のエンケラドスでの仕事は良い職場からは遥かに遠い。

 太陽とエンケラドスとの距離ーー13億キローーぐらいある。


 |働かないと食べられず飢え死にする《ノーワーク・ノーフード・ノーライフ》という「悪い待遇」

 暗闇の深海で箱を持って泳ぐだけの「悪い仕事」


 そして、今日はめでたく三要件目の「悪い同僚」条件を達成した。


 僕にもついに同僚ができたんだ!

 やったね!


 さて。例の矯正学習の教材を見せられた翌日なのだけれど、残念ながら普通に深海労働に従事することになった。

 繰り返し教材を視聴したやる気と知的能力を買って仕事内容と待遇をアップ!とは行かないようだ。

 どうもこのブラック職場は能力評価が機能していない。

 悪い職場と上司にはよくあることだよね。


 そうそう同僚の話だったよね。


 僕がいつものようにタコ・シェルに身体を滑り込ませた後で深々度カプセルに貼りつき深海ダイブに備えていたら、視界を暗い影がサッと横切った。と感じた一瞬後に、タコ・シェルのヘルメットにバチン、と凄い衝撃を受けた。


 強い力ーーおそらくは尾びれでーーで叩かれた、とわかったのは気を失って数瞬後に視界が回復してからだった。

 僕の眼前には『キュキュキュ』っと嘲笑する例のイルカがいたんだ。


『なに…イルカ…なんで?』


 最初に疑ったのは「学習教材の見すぎで幻覚を見ているのか?」ということだった。

 なにしろ青いイルカの幻影には昨夜もさんざん苦しめられたからね。


 次に思ったのは「なぜこんな僻地(エンケラドス)にイルカがいるんだ?」ということだった。


 昨日見たクソ学習教材(プロパガンダ)によれば、労働動物の社会階層ヒエラルキーにおいても、イルカは犬猫クジラと並んで人間に優遇されているトップカーストにいるはずだ。


 なので、普通に考えれば地球の暖かく太陽がきらめく海で優しい人間と一緒に楽しく働いているはずなのだ。何を好き好んで暗黒の深海で半機械人間や頭足類と仕事をする羽目になったのだろうか。


 僕の疑問は、リナとイルカの光信で部分的に解消されることになった。


『ウィリー!勤務時間中の労働動物に対する暴行は違反行為にあたります!』


『自由時間に何をしたっていいだろう?それに今のは新入りへの挨拶だよ、あ・い・さ・つ』


 こいつ(イルカ野郎)、今の暴行を挨拶って言ったか…?

 おまけに《《自由時間》》だと…?


『ち、ちょっとリナ。今、自由時間って言った…?』


『ええ。はい。ウィリー(イルカ)には1日《《最低8時間》》の自由時間が与えられています』


『僕には自由時間が与えられたことはないけど…?』


 この数日間、僕がしたことと言えば、矯正学習教材の視聴を除けば、移動して働いて移動して眠ることだけだった。

 困惑した僕がリナに光信で問い返すと、近くにいたイルカ野郎(ウィリー)が光信ーー口吻の先が光ってたーーで、また『キュキュキュ』と嘲笑しながら告げた。


『イルカとタコが同じわけないじゃん!イルカは愛されてる!タコは愛されてない!イルカは人間と友達!タコは人間の奴隷!ひゃっほぅぅーーーいぃぃ!キュキュキューッ!!』


 暴言を吐いて満足したのか、イルカは暗い海を光が届かないところまで叫びながらすごい勢いで泳ぎ去って行った。



 しばらくしてから、深海まで移動するカプセルに貼り付いたまま僕はリナに聞いてみた。


『さっきの話…本当なの?イルカには自由時間があるとか』


『部分的には正しい認識です。一種労働動物であるイルカには太陽系連合市民のおよそ半分の権利が法律で保証されています』


『連合市民権利のおよそ半分って…?』


『具体的には、自由で健康的な生活を送るための生存権、職業選択の自由及び団体交渉の権利を含む労働権、市民として基本教育を受け正しく判断をするための情報アクセス権。その他の権利です。ただし選挙権及び被選挙権を含む参政権は制限されています。


 ちなみにイルカの労働への対価の支払いと、労働時間外の自由時間の保障は雇用者の基本的な義務です。違反には厳罰が伴います』


 さすが未来社会だ。動物にも部分的に人権が認められているらしい。

 僕は少しだけ希望を抱いて聞いてみた。


『じゃあタコの権利は…?』


『三種労働動物である頭足類には労働の権利があります』


『…それから?』


『以上です』


 僕は続きを待ったけれど、他の権利はないようだった。

 なるほど。人間が生まれつき平等でないように、労働動物も平等ではない。


 僕は一発で同僚イルカが大嫌いになった。

 最初に悪い職場の三要件と言ったのを覚えてるかな?


 そう。つまり僕の「待遇が悪くて」「仕事がつまらない」ブラック職場に「気分の悪い乱暴な同僚」が追加されたことで、めでたく最悪のブラック職場が誕生したわけだね。


 生を与えてくださった神様、ありがとうございます。

 今後はお祈りをやめようと思います。

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異世界コンサルの作者は今何を書いているのかなと思いたどり着きました。 5万文字を超えたらまた来ます 異世界コンサルは更新をとても楽しみにしていた
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