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わがはいはタコである   ー宇宙の果てで働く転生タコは人間になりたいー  作者: ダイスケ


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第18話 イルカ接待イベント

書き溜めが尽きるまでは毎朝更新します

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 数日後、イルカイベントへのお呼ばれがあった。

 人間、が来たらしい。

 いそいそと参上すると、今回のイルカプール入口検査は血液採取検査と寄生虫検査《《だけ》》で済んだ。

 泣けるね。


 検査が済むと相変わらず不公平なまでに強い太陽光と温かく澄んだ海水で満たされたイルカの運動場水槽に入っていく。

 行ってみると、既に事前の触れ合いとやらがが始まっていた。

 まずは互いに映像で挨拶して、愛想を振りまく時間。

 人間の方は、食事中らしかった。

 高級ホテルの内装っぽい背景にテーブルには食事が載っていて、リラックスしながら笑顔をイルカに向けている。

 人間から見える光景を想像すると水槽が見えるレストランみたいな感じなのかもね。

 接待イルカの方も心得たもので、画面を覗き込む人間によく見えるようにカメラの画角を意識してくるりと身を翻したりと、達者な芸を魅せている。


 さて。僕が注目したのは、そうしたイルヤかや人間の姿よりも食事の光景だ。

 人間はテーブルに載せた皿の上の食事をナイフとフォークで食べている。

 スープをスプーンで掬い、コーヒーをカップから飲んでいる。

 つまり、《《人間のいる場所には、ちゃんとした重力がある》》ことを示している。

 食事を快適にとるため、というだけの理由で重力を発生させているんだ。

 いやいや贅沢なことだね。

 主菜メインはでかくて赤いエビ、に見える。

 ひょっとしてあれは天然エビじゃないだろうか?

 ヒゲや目、ハサミや脚の造りが細かい。造型飯ではあの精度はでないだろう。 

 種類は…わからない。高級エビとして知られるスペイン産のカラビネロスあたりだろうか?

 殻の感じからして車海老や伊勢海老ということはなさそうだ。

 

 それにしても天然エビをいったいどこで養殖しているんだろう?

 エンケラドスのどこかに水産資源養殖場があるんだろうか?

 僕の食事にも海老が出されてもいいいのに。


 いや…そうではないだろう。

 特権階級の動物であるウィリーでさえ食べたことがなさそうということは、星外から輸入する超高級品の類じゃなかろうか。

 半機械化人のリナは天然海老を食べたことはあるんだろうか?


 画面の向こうでは、人間たちがエビを注視するイルカに見せつけるようにフリフリとおふざけで振ってみせると、イルカたちは完璧に踊らされていた。

 なるほどなあ。ウィリーのエビへの執着の元はこれか。

 人間だけが食べているから、特別なごちそうに違いない、と思ってるんだろう。

 僕の遠い記憶によれば、家で飼っていた柴犬も人間様の飯が気になって気になって仕方ない様子だったのを思い出した。中の成分や食材は犬に合わないので食べたらダメだというのに、クンクンと泣きながら湿った鼻面を背中に押し付けてきたっけ。

 過去の記憶を探っている間に、画面の中の人間たちは、イルカとダイビングの準備をするべく窓から離れていった。

 あっ。エビの尻尾を皿に残してるぞ。勿体ない…捨てちゃうのかな


 それから、僕が懸命にイルカと触れ合う人間達のために8本の腕足をフル回転して水中輪っかやボールを準備していると、ついに人間たちが水密隔壁から入ってきた。

 宇宙服っぽい頭全体を覆う透明なヘルメットを被ったダイビングスーツを着ている。それが二人。体型からすると、たぶん男女の組み合わせだ。

 あれが《《機械化されていない人間》》か…。

 未来太陽系社会のトップオブトップエリートの超上位社会階層世界の住人だ。

 僕のような労働動物の最底辺層からすると、一、二、三、四、五階層ぐらい上?

 種族的な階層でそれだけ離れているし、各種族内にも最低でも二、三の階層ぐらいはあるだろうから、トータルで何十だけ社会階層の隔たりがあるのか想像もつかない。


 水槽内に泳ぎだした人間たちにイルカ達が先を争って近づき、キュキュキュと愛想を振りまきながらしきりに光信で挨拶をしている。

 それに対し、人間はイルカに応えて左手を振りながら潜水服の右腕についた腕時計っぽいものを光らせて挨拶を返していた。

 挨拶から反応までに少しタイムラグが有る。光信にしては、ちょっと鈍い感じがする。緊張しているのかなあ…とまで考えてから気がついた。

 この人間たちには、労働頭足類ぼくにすら発現している光信器官が備わっていないのだ。

 代わりに潜水服の何らかのデバイスでイルカの光信を解読し、音声で発した言葉を光信として腕時計っぽいデバイスから発光信号として出力しているように見える。

 なるほど。これが無改造の人間ということか。

 瞳と指先で光信できる半機械人のリナとは確かに人間としても種族が違う。


 それにしても…と僕は初めて見る人間を観察しながら不思議に感じた。

 トップオブトップのエリートというわりに人間たちはなんというか…普通だ。

 潜水服の透明なヘルメットを通して見える素顔はーータコになってから人間の顔の区別がつかなくて自信がないのだけれどーー 一般的な美男美女でもなさそうだ。

 失礼かもだけど、そう感じた。

 リナと比較すると顔が左右対称じゃないんだよね。

 体型もややだらしないようだ。男の方なんてちょっとお腹出てるし。

 もっとこうエリート然としての自覚ないのかな。

 あれが無改造の自然人の矜持というやつなのだろうか。


 いけないいけない。人間を批判的に見ても得することはなにもない

 僕には大事な作戦がある。

「人間と仲良くなってペット身分を買おう」作戦だ。

 名前が違ったけ?ほら、そのあたりは高度な柔軟性で臨機応変だから気にしない気にしない。


 とにかく!人間とイルカが遊ぶのを手助けして注目は惹かないとね!

 ウィリーも人間たちに向かいキュキュキュと愛想よくボールを持っていく

 僕の出番だ!

 ウィリーが水中でくぐりやすいように、腕足で輪っかを支える。

 イルカが通れて、なおかつ人間に見やすい角度を保つには苦労するんだよね。

 ボールをつつきながらウィリーが輪っかをくぐると、人間は喜んだ。

 次に僕は人間にウィリーと遊べるようボールを手渡しする。

 息もぴったり!タイミングも完璧だ!

 人間が持つボールをウィリーがつつくと喜んでくれている!

 そして僕は調子に乗ってタコ文字でOKサインを出してみた。

 『すごいすごい!すごく賢い!』と手を叩いて人間が喜んでくれた。

 大成功だ!

 僕はその後もイルカ・レジャーの裏方として全力を尽くした。

 人間たちはとても満足したようだった。


 接待は大成功だった、と言っても良いだろう。

 面白いタコとして売り込めた、という手応えもあった。

 人間たちは気分良く遊んで帰り、僕らは首尾良く接待を終えた。


 さあ、人間たちよ。

 僕のことが気になっただろう?

 賢いタコだって気がついただろう?

 動物愛護の精神を発揮して奴隷身分から引き揚げてくれてもいいんだよ?

 なんならタイタンへ連れて行ってペットとして飼う、ぐらい言ってくれてもいいんだ。

 そうなったらどうしよう?

 どんな名前にしてもらおうかなあ。オクトなんていかにもタコっぽい名前でなくて、もう少し賢い名前にして欲しいなあ。

 人間たちが去っていったことはゴゥンゴゥンという人工重力区画の作動音が消えたことでわかった。

 同時に地下鉄の音のようなキキキキキィという音も聞こえた。

 ブレーキ?何かの交通機関の音だろうか?

 寝ているときに聞こえた音は気の所為じゃなかった。

 青いイルカにあの音はなにか?と質問してみたけれど、質問の意味がわからなかったみたいだ。

 相変わらず肝心なところで役に立たないイルカだね。

 連れて行ってもらえなかったことは残念だけど、いろいろ準備もあるだろうし吉報を待とう。

 果報は寝て待て、ともいうしね。



944D Left


 人間の接待から、あっという間に2週間経った。

 それで。

 今のところ何も起きていない。

 人間から引き取りたいとか、奴隷労働枠からペット枠への打診は届かない。

 それどころか接待での報奨も1AWすらない。


 おかしい。

 遊びに来たウィリーに、人間から連絡があったか聞いてみた。

 

『いっぱいAWを貰ったキュー!!』だって。

 人間たちは、イルカ接待にたいへんご機嫌で、その日のうちに、大量のおやつとおひねりのAWを山程貰ったらしい。


 『…僕には?』

 『知らんキュウ』


なんと友達甲斐のないやつだ。

いや別に友だちになったつもりはないけど。


上司にも聞いてみた。


『リナ。何か僕宛てに監察官から話は来てない?』

『いいえ。何も』


 …あれぇ?

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