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9話 ミスリィ襲来

 入学試験まであと三か月、そろそろ魔法と社会に関しても過去問に取り掛かって良い頃合いになった。

 国語、数学、科学はなんとか前世での記憶を総動員し、過去問がすでにある程度は解けるようになってきた。そしてトレイン学院の入試のやばさもよく分かった。どう頑張っても解けない問題があるのだ。マルクスにそれを聞いてみたところ…


「おや、セト様。お気づきになられるのが早いですね。そのことが分かるくらいまで十分に勉強をなさったということです。もう、この三教科に関してはソフィア様にあともう一歩ってとこですな」

「ええ、実技だけでなく座学まで抜かれたら私の立つ瀬が無いよぉ」

「質問の件ですが、思いっきり範囲外の問題は出ます。しかも毎年。これに関して結構な人が苦情を言うんですが今のところ直っていないので諦めてください」

「推測だけど、トレイン学院には研究者よりの教員が多いからか、そういう人が作問担当者になったがために受験生のことを度外視する問題を作っているんじゃないか。と言われているね」


 まじかぁ、研究者よりの人が多いと聞いた時から教育面に関してちょっと不安に思っていたが入学前からその校風がありありと感じられる。


「そうそう、セト様。明日私の友達がうちに来るんです。是非会ってみませんか?」

「いいけど、どんな人なの?」

「名前はミスリィといって、私が昔けがしたときに急遽運ばれた先の病院で知り合った子なの。しかもセト様と同じで貴族の出ではないけど同じくトレイン学院入学を目指しているの!」


 へぇ、他の入学希望者と知り合えるチャンスじゃないか。ここのところは、実質ゼロからの入試対策だったからほぼ缶詰状態で外界と接していなかったしいい機会じゃないか。そう思ったときふと疑問に思ったことを聞く。


「その子は貴族の子じゃないのにどうやって入試対策しているの?」

「入試の勉強は大きく二つに分けられて、家に講師を招くパターンと学び舎に行くパターンがあるよ。その子は前者だね」

「つまり、金持ちか都市部付近の子しかほぼ道はないのか」

「そうなってしまう現状ですね。問題だとは思うんですけど」


 ここでも前世のように資本主義の格差を見せつけられて、どこの社会も似たようになってしまうのかとちょっと思ってしまう。そんな空気を見かねてかマルクスが口を開く。


「ソフィア様は友達とお会いになる、セト様は気分転換ということで明日の勉強はお休みにしましょう。十分に楽しんできてください。時間もいい感じですし本日はおしまいということで」


 確かにもう日が沈んでおり館にも灯りがぼちぼちついていた。マルクスにお礼をし、二人で部屋を出て、食堂へ向かう。いつもなら他愛無い話で盛り上がるのだが、今日は違った。ソフィア様が少し赤い顔をしてもじもじしている。何だろうと思っていると


「そうそう! さっきミスリィちゃんの話題を出したときにふと思ったのよ! 私たち同い年でこんなに仲がいいのに様付けはちょっとあれよね」


 そう早口でまくし立てる。いわれてみれば確かに、最初の会話以降、様をつけるのが常態化していた。ソフィア様、じゃなくてソフィアが勇気を出していってくれた以上それに応えるのが男よ!


「えーと、ソフィア?」

「ソフィでいいよ、セト…くん」


 ソフィは呼び捨てに慣れていないのか最後に小さく、『君』を付けた。二人で気恥ずかしくなり小さく笑いあう。なんて幸せなんだと思っていたがあることに気が付く。


「これ、ソフィのお父様にこんな呼ばれ方しているの聞かれたらまずいかも」

「確かに。じゃあこれからは二人きりの時に呼び合いましょう」


 ようやく関係性が一歩前進したような気がして心が躍る。これのきっかけを作ってくれたミスリィはどんな人なんだろうな。



「久しぶりミスティちゃん! 最近調子はどう?」

「相変わらず元気だね、ソフィは。最近は結構いい感じだよ。じゃなければ今日来れないしね」


 微笑ましい二人のやり取りが正門でなされている。

 朝十時くらいにミスリィと彼女の母親がプロヴァンス邸に訪れてきた。 


「あ、そうそう。あっちにいる男の子がセト様で、私のことを助けてくれたんだよ!」

「へぇ、あの青年がかぁ。いい人そうだね」


 そう言いながら二人が見てくるのが分かる。俺は軽く会釈した後すぐに目を別のほうに向ける。ミスリィの目が結構怖い。ソフィと話し合っているときには楽しそうな年相応の表情だったが俺を見るときはこちらを見透かそうとする視線が飛んでくる。


 ミスリィの第一印象は明るいオレンジ髪でだれとでも仲良くなれそうな人柄、いわゆるギャルというものだったが、今では裏がある明るいギャルという印象になっていた。現に今でもソフィとの会話の最中に時折、先ほどのような怖い視線を感じる。

 どうしてなんだろうと思っていたら


「セト様。私たち三人で軽く裏の山に入りませんか。よくミスリィとお父様の目を盗んで遊びに行っていたんです」

「初めましてセトさん。私はソフィの親友のミスリィです」

「えーと、初めましてミスリィさん」


 まさかの保護者の監視を外れてこの人と一緒になるとは。絶対に何かある。



「懐かしいね、最近ミスリィちゃんが来ないから体調どうしたんだろうと思っていたの」

「私は体が弱いからね、少し体を動かしただけでばてちゃって。でも私もトレイン学院に行きたいから実技も少しは点をとらなきゃと思ってやってるよ」

「そっかぁ、無理はしないでね」


 わいわいとした会話がなされている。いつもなら混ざりに行きたいところだがミスリィが自分をどう思っているか、混ざりに行ってもいいものか思ってしり込みしてしまう。どうしたものかと居心地の悪さを感じる。


「ところで、セトさんもトレイン学院に行こうとしているんだよね」

「え、まあそうですけど」

「セト様は凄いんだよ! 勉強初めて三か月くらいなのに実技はもう合格点、筆記のほうもほぼ合格できるくらいなんだよ」

「へぇ、それは凄いね」


 言葉が突き刺さる。こちらを警戒というよりは、友達に付いた虫を見極めようとしているんだ。


「でも、自分の家に異性の同世代の子がいるのって不安じゃない?」

「セト様は信頼していますし、お父様の命で別邸に寝泊まりしてもらっていますし」

「ふーん、じゃあセトさんの何を知っているの?」

「それは、例えば困っている人を助ける優しさとか、それを実行できる強さに、今からでも頑張る努力家なとことか…」

「神託は?」

「…え?」


 いきなりぶっこんできたなこいつ。基本、神託なんて家族しか知らないし本人が言いふらさなきゃ他の人には分からない代物なのに。


「流石にそれは…」

「でもここまで支援してあげているのに秘密の一つや二つくらい教えてもらってないんでしょ」

「いや、でも」

「なんなら私が聞いてあげるよ」


 そう言い、目を合わせてくる。無理にでもこじ開けてでも考えを読みとってやるという迫力に気おされる。


「ねえ、あんたの神託はなんなの」

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