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5話 目覚めと今後についての提案

「まぶたが動い…! お母…! セトが起…た!」

「良…っ…! いま先…を呼んでくるわ!」


 周りがうるさい。今大事なやりとりを思いだしていたような気がするのにもう思い出せないや。そう思いながら周囲に目を向けるがまだ霧がかかっているようでよく見えない。しかし、白い霧の中でなにかが動き回っているのが見える。

――ここはどこなのだろうか。


 そう思っているとだんだん霧が晴れてきて母さんとニア姉さんと村医者であるボイムスの顔が見えた。ああ、ここは病院で俺は気を失ってしまったのか、あの子は大丈夫だったのだろうか。そんなことを思いながら首を回しみんなのほうを向く。


「せと! 起きたのね!」

「無事で良かった…、本当に…」

「目を覚ましてひとまずはよかったです。カズヤ君が泣きながら村のみんなにスピンとセトを助けてくれって言ったときは本当に肝を冷やしましたよ」


村医者のボイムスが続けて話す。


「少し聞きたいのですが、セト君は高熱を患っていた他には特に目立った外傷とかなく鎮痛魔法と氷で軽く体温を下げたくらいしか今は処置していません。体内に悪い何かを入れられたか、考えたくはないですけど呪いなども考えられますがそのようなものを受けましたか?」


 ボトムスさんは真剣な表情でこちらを心配し、自分が倒れた原因を特定しようとしてくれている。それに応えてあげたい! でも言えない、まさか自分の神託の代償により見させられた死の間際を思い出して気絶したなんて言えない。


「いえ、そういうものは受けてないです」

「そうですか。では一旦ここで安静にして大丈夫そうでしたら退院ということで大丈夫ですかね」

「はい、分かりました」


 そう言うと母さんとニア姉さんも続けてお礼を言い、俺に抱き着いてきた。それを見たボイムスさんは安堵しつつも結局原因がわからないことが気がかりなのか悩んだ表情で病室を退室した。

俺は幸せ者だと感じながら二人と何があったかや、俺が寝ている間にどんなことがあったかなどの談笑にひたる。しばらくすると二人は昨日の女の子と話があるらしく病院を後にした。





 翌日、特に問題はなくきちんと歩けるということで昼には病院を出た。

――まあ、特にオルトロスからダメージを食らったわけではなく自爆みたいなもんだし当たり前か


 家に帰ると玄関で母さんとニア姉さんが迎えてくれ、退院祝いとして豪華な夕食を用意すると言ってくれて少し涙が出る。リビングに入ると例の女の子ともう一人タキシードを着た20代半ばと思われる女性がいた。軽く二人から自己紹介をしてもらったところ、助けた女の子はソフィアと言いプロヴァンス家という貴族の娘とのことだった。確かに立ち姿や恰好からいっても気品があるように感じる。もう一人の女性はソフィア様のお付きの人で名前はアリサというらしい。無表情だが整った顔をしており身長も女性にしては高い。

どうしてここにこの二人がいるのだろうと思っていると、


「セト、大事なお話があります」


 急に真面目な顔で母さんが発言した。


「ベイツ森林に勝手に行ったこと? それは本当にごめんなさい」

「それもありますが今は違います。ソフィア様から何か話があるとのことです。ソフィア様、お願いいたします」

「分かりましたわ」


 そう言いソフィアはこちらに真剣な眼差しを向ける。


「セト様、単刀直入に言います。私とともに学院入学を目指してみませんか?」


 学院? 急になんで? 


「えーと、ソフィア様? それはどういうことでしょうか?」

「まずはお礼を、先日は本当にありがとうございました。あのときセト様の戦いぶりを見て感心しました! 剣の腕前、魔法の選択とそれの発動、どちらも素晴らしかったです。そして何より立ち回り! 魔獣の口から炎をわざと吐き出させ、その隙に再度に回り込み畳み込む。圧巻でした!」

「えーと、ありがとうございます?」

「しかし、魔獣のサイドに回り込むとき、セト様の移動が私には早すぎて正直とらえきれませんでした。きっとそれがセト様の特殊な能力であり、神託でしょう! 大丈夫です。神託について隠したいと思われるならば無理には聞きません!」


 神託という単語を聞いて体を強張らせたがすぐに安堵した。確かにあの時は非常時だったからそこまで考えていなかったが、自分が神託を使用したところを他の人に見られたのはあれが初めてだった。ソフィア様がもし自分の能力について見抜いてそれを家族に伝えていたら、もう二度と狩りとか危険なことはさせない、と禁止されていたことだろう。

しかしソフィア様は高速移動といった類の神託だと思っているようでホッとした。あとは、ソフィア様に合わせていればバレないだろうと思って口を開く。


「ちょっと色々な事情がありまして神託について秘匿させていただけるのはありがたいです」

「いえいえ。それより、そんなセト様の実力を見込んで、そして今回の件についてプロヴァンス家からのお礼として一緒に同じ学院に行きませんか! と提案させていただきました」


 母さんとニア姉さんのほうを見るとうなずいている。きっと昨日ソフィア様と大事な話というのはこれのことだろう。筋は通るが、いまいち要領を得ないな。なぜそこで学院なんだ、直接的にはつながっていないぞ。そんなことを思案していると、それに気づいたのかソフィア様は話を続ける。


「失礼ながらセト様とご家族の事情について軽く調べさせていただきました。色々なことを経験されており私のような部外者が軽々しく口を出せるものではないのは分かっておりますが、端的に言いますと貧困で苦しんでいると感じました」

「まあ、そうですが」

「この先セト様及びニア様はどのようなことをなさるかなど決めていますか?」


 なるほど、ようやく見えた。このまま将来はどうするつもりなのかを聞いているのだ。そして学院に行けばおそらく将来の選択肢が増えるのだろう。今回の件のお礼として将来の選択肢が広がる提案をしてくださったということか。

しかし、これはどうすべきか悩む。いま俺がいなくなったら二人は十分に食糧とかを得ることが出来るのか。いやそもそも貧乏平民が学院とか行けるのか、学院は貴族や金持ちが行くイメージを勝手に持っている。


「ソフィア様、少し確認したいことがあります。私たちには学院に払う学費を有していませんし、そもそも平民の私がいける学院はあるのでしょうか」

「もちろん、学院費用は私たちのほうで持ちますし、学院について最近では身分による区別をしない学院も増えています。私はカルバラ国にあるトレイン学院を考えております。ここは、国や公共機関による設立ではなく一般団体が立ち上げた学院で注目を集めているところなんです」


つまり、国立や公立ではなく私立の学院ということか。確かに昨日母さんたちにこの話をしているんだし、母さんたちがこのことを確認しないわけないか。しかし、やはり他にも確認したいことが出てくる。


「でも、そんな学院に入るにはなんかこう、よく分かりませんが試験とかあると思いますが…」

「おっしゃる通りです。学科試験と実技試験があります。こちらについては、セト様に私の家に来ていただいて勉強をしてもらうことになります」


 そこまで手厚い対応をしてくれるのか。確かに命を助けたとはいえここまでとは、やはり貴族は礼儀とか体裁とかいろいろ気にしなくちゃいけなくて大変そうだな。

 ソフィア様の提案は将来の選択肢が増え家族をより助けることが出来る点でかなり魅力的だし、正直俺としても他の同年代の人との関わりや、自分がどれくらいの能力を持っているかの確認をしてみたい。

 でも、いま俺が行ったら二人の生活はどうなるのか、そもそもこの提案に二人の本当の考えを聞きたい。


「ソフィア様、説明ありがとうございます。ちょっと家族内で相談したいので、明日に考えをお伝えしてもよろしいでしょうか」


 そう言うとソフィア様は少し驚きながらもすぐに了承し今日来た時と同じくらいにくると言い、ソフィア様とアリサさんは家から去っていった。最後ソフィア様は少し不安そうな表情をしていたように見えたが、そう思った次の瞬間には先ほどまで見せていた自信ありげな顔に戻っていた。別にソフィア様にとって俺がこの提案を断っても特にデメリットとかないし不安がることなどないだろう、見間違えただけだな。

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