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20話 入学初日

 プロヴァンス邸の別館で目を覚まし、カーテンを開けると気持ちの良い日差しが入ってくる。


 今日が記念すべき学校生活初日になる。朝9時から大講堂にて入学式をする関係上、流石にナッツ村からトレイン学院にいくのは朝が早すぎるとのことで前日からマリーさんのご厚意に甘えて1か月ぶりに使わせてもらっていた部屋に戻ってきていたのだ。


 支度を済ませソフィのご両親に挨拶をする。


「ソフィもセト君も元気でいてね」

「寮生活で私の目が無いからと言っては目を外しすぎるなよ」

「「はい」」


寮生活がどんなものかという期待と不安がある。それは隣のソフィも同じようだった。寮についてはどんな者でも少なくとも一年間は入らないといけないらしい。なんでも訓練所や実験道具の整備といった超基本的なことの重要性を身分問わずに教え込むためとのこと。


 最後の挨拶を済ませアリサさんと共に馬車に乗り込みプロヴァンス邸を後にする。


 最初に見た時と同じように、クリーム色の建物がどっしりと構えている。しかし、あそこで半年過ごしたからか、当初の建物に見降ろされている威圧感は感じられず、むしろ俺たちの出立を祝っているようにすら思える。


――行ってきます


 そう心の中で建物と敷地に礼をする。



「私たちは同じクラスになれるでしょうかねぇ」


 トレイン学院は一学年約200人の学生を5クラスに分け、毎年クラス替えをしている方式である。クラス分けの基準とかは特に明示されておらず身分や成績や得意分野、出身地などで分けている感じが無いらしく本当に分からないらしい。

受験番号と同じでほとんどくじ引きとかで決めているのではないかとも言われている。


「一緒だとうれしいね」

「こればかりはトレイン学院についてからのお楽しみですね」


 確率は1/5とそこそこ分の悪い賭けだが低くもない確率でやはり少し期待してしまう。



「では、お二人とも、存分に楽しんできてください」


 トレイン学院に着くと入試の日と打って変わって結構空間に余裕がある。入試の時と比べて人数が二割程度になっていることで入試の時にはなかなか見えなかった石畳がすんなり見える。


 アリサさんは学生でないため正門から先には行けず軽く挨拶をして、後ろから続々とくる人に道を譲るように離れていった。淡白に思えるかもしれないが、クールな表情が少し崩れて寂しそうな表情であった。


 ソフィもそれを察知したのか笑顔でありがとうと言い、目の前に立ちそびえる校舎に体を向け俺の手を引き歩き出していた。


 ソフィと一緒にクラス分け看板の前に行き自分たちの名前を探す。するとすぐにソフィが喜びの声を上げる。


「ありました! 私たち同じ2組です!」

「はっや」


 思わず驚いてしまった。確かに見ると俺とソフィの名前が記載されている。


「セト君の名前がすぐに見つかって、同じクラスを全力で見ていたら私の名前があって、えへへ。ただ、ミスリィちゃんとは一緒ではなさそうですね」


 可愛いことを言ってくれる。

 照れながらもミスリィの名前を探すと4組にいた。流石に平民同士の友達まで一緒とはいかなかったか。


「さあ、待機列に行きましょうか」


 同じクラスだったからか不安がなくなったかのように明るい声で向かい始めるソフィに苦笑しつつ後ろから追いかける。


 

 2組の列に並び、前にいるソフィと軽く話していると聞きたくもないがひそひそ声が耳に入ってくる。


「あいつって雷のやつじゃないか」

「ああ、あれが平民の」

「なんでもプロヴァンス家に取り入ったとのことだぞ」

「どんな手を使ったんだか」


 入試の時の魔法試験で悪目立ちをしてしまったつけが来ているのか。あろうことか俺がプロヴァンス家に付け込んだとも言われている。

 ソフィは軽く怒りの表情を出しながらも周りに制止することはしていない。ここで周囲に言っても逆に立場を悪くすることが分かっているのだろう。


「君が電撃を乱さずに一発で当てたと噂の人かな?」

「セト君がそうですが何か?」


 周りの声をとりあえずは無視しようと思っていた時に不意に後ろから話しかけられた。振り向くより先にソフィが警戒の色を露わにして応える。


「そんなに邪険しないでくれよ。俺はケイザ・ゴンザーガ。クラスメイトと仲良くしたいと思っただけだよ。そちらのソフィア・プロヴァンスさんもよろしく」


 爽やかそうな青年だ。表情からは特に馬鹿にすることや妬みなどは読み取れず、単純に仲良くしたいと思っていそうだ。


「ああ、俺はセト・ブラウンだ。こちらこそよろしく、ゴンザーガさん」

「よろしくお願いします、ゴンザーガさん」

「ケイザでいいよ」


満足そうにうなずくとケイザは少し寄って周囲に聞こえないくらいの声量で話し始める。


「周りの学生は君が平民だということで何かと言いたがっているが、落ち着くと思うよ」

「それはなぜ?」

「何でも一つ上の学年で平民が上位の成績をたたき出すという異例の事態が起きたらしく、平民への見方が学院内で変わってきていると聞いたんだ」

「それはぜひともお会いしたいですね」


 トレイン学院では定期的に実技の実力測定を全学年交えて大掛かりでやるらしい。毎年内容は異なるが主に同学年内で競った後、学年の壁を越えて競い合うとのこと。もちろんこの方針では基本、最上位学年の3年生のみが最後には残るとのこと。


平民は今まで良い成績をそこまで出してこなかったという背景もあり学院内での平民の立場は低いと聞いていたが上位に挙がった平民が出たのか。

 ソフィもそれは初めて聞いたらしく興味深そうに聞いている。


「で、本題なんだけど。君は後ろの子に何かやっちゃった? 俺越しに君をにらみ続けていて凄い気まずいんだよね」


 少し困ったような顔をして後ろを示す。恐る恐る目をやると何か見覚えのある青髪の女の子がこちらを見ていた。 

 目があった瞬間、その子はすぐに目をそらしたが確かにこちらを凝視していた。


「あの子と何かあったんですか?」

「ああ、確か入試の剣術試験で相手をした子だな」

「あはは、あの試験形式だとそういう確執的なものは起きるだろうね」


 ケイザは同情して、しょうがないことだと慰めてくれている。あの子の去り際の『覚えたから』は少し怖かった。入試を突破しているのはまだいいとして、まさか同じクラスになるとは。


「静かに! そろそろ時間です」


 白衣をすらっと着こなした女性が俺たち新入生を一喝する。美人ではあるが指示に従わなかったらこってりと怒りそうな厳しめの女性なこともあって一瞬で場は静まり返る。


「よろしい。では、列を崩さず組ごとに先頭の上級生に従って進み着席して開会を待て」


 その言葉と同時に列が進み始める。

 緊張した面持ちで開け放たれた扉の中に吸い込まれていく。

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