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18話 初めての覚醒

「『行動回数増加』発動」


 口から漏れ出した言葉に驚く。今までは制御ができなかった神託が、ようやく自分の手中に収まった感覚がした。


 強制発動された場合の時よりもスローになっている度合いは少ない気がするが今回の場合は十分だろう。


 地面に垂直に落としていた腕を止め、剣が防がれないよう横にずらして斜めに斬る、袈裟斬りに切り替える。


 その瞬間、スローモーションが解除される。やはりまだ主体的な神託発動では効果も、効果の持続時間も劣っているのか。


「これか」


 ルドルフさんは一瞬目を大きくして驚いている様子だ。


押し切れる、そのまま斬りつける。

防ぐのは無理だと悟ったのか防ぐ様子がない。ようやくだ。肩に剣を当てる、マリーさんが施したバリアにより威力がかなり軽減される。


 バリアの感触に気づき急いで剣を横に倒し、斬りつけるのではなく刀身で肩を叩くようにし怪我をさせないように配慮する。


「終わった」


 ふぅ、と一息をついた途端脇腹に叩きつけられる衝撃を感じ横に少し飛ばされる。


「神託の能力は何となく分かったが、決め切るという点ではまだまだだな」


 ルドルフさんはそう言い堂々とした姿で剣を鞘に納め帰っていく。


「あ、ありがとうございました!」


 色々言いたいことはあったが、最初に出たのは手合わせをしてくれたことへの感謝だった。脇腹を見ると赤くじんじんとした腫れが出来ていた。おそらく、防御を捨て俺と同じように剣を倒して横腹を打ってきたのだろう。


――最後まで気を抜くことがないように勝ち切らなきゃな


「セト君!」


 ソフィが人目を憚らずセト君呼びをする。脇腹の痛みにうずくまった俺に駆け寄ってきて必死に痛みを和らげようと回復魔法をかけている。

 

 神託を能動的に使うことが初めてで疲れがどっと襲ってくる。ちょうどソフィがそばであれこれしているし甘えよう。寝るか。



「無理をしすぎですよ」

「マリーか、すまない。ベッドまで肩を貸してくれ」


 ルドルフはマリーに支えられ何とか寝床にたどり着く。


「絶対あそこまでやるつもりなかったでしょ」

「ああ」

「ほら、身体を見せてみなさい。今、水やタオルとか持ってきてもらっていますから楽にしてください」


 身体には最初にわざともらった電撃の軽い焦げ目や、直撃した炎の跡、そして肩にはあざが出来ている。


「なんか最後、格好つけたこと言ってましたけど普通にやられていましたね」

「セトの神託だろうが、何か不思議な能力だな。いわゆる後出しみたいなことをされている気分だった」

「へえ、不思議ですね。それでセト君はあなたのお眼鏡にかないましたか」

「まだまだ油断している節はあるが、何とかして勝とうという気概が感じられるところはいいだろう」

「あら、褒めるなんて珍しい」


 勝ちに対してあれこれ試行錯誤する態度、そして肩を斬りつける直前に踏みとどまれる判断力は悔しいが認めざるを得ないな。


「ま、まだまだってとこだろう」

「そんな強がりを言って。なかなかいないと思いますけどね、あんな青年」


セトへの評価を話し合っている最中に、失礼します、そう言って使用人の一人が入ってくる。



 疲れにより熟睡しているセト君をのせ、私とアリサが同乗者の馬車がだんだん薄暗くなる森の中を駆け、なんとか完全に暗くなる前にセト君の家に着く。


「お久しぶりです。ソフィア様、アリサさん。今日は合格発表とのことでしたがかなり遅かったようですね」

「あの、セトはどこでしょうか。あ、あと結果はどうだったのでしょうか?」


 帰りが遅くなったことを不思議に思ったセト君のお母さまとお姉さまが口々に聞いてくる。

 その問いにどう答えようか迷い、つい表情に出してしまった。


「セトは落ちたのですか、でも一生懸命やっていたことはこの前伝わってきていい経験だったと思います」

「あの、セトはどこでしょうか?」

「ああ、いや、セト様は私と同じく合格しました。そして馬車の中で寝ているところです」


 私の言葉を聞いて安堵し喜ぶとともに馬車の中にお祝いしに行く。その瞬間、やはりというか案の定空気が変わる。


「なぜ、セトがこんなにも疲れているのですか」

「というよりなんかケガしてない?」


 こちらを疑うような眼を隠さず向けてくる。これはしょうがない、素直に全部白状しましょう。




「「ええぇ?」」


 合格発表から帰った後すぐにセト君がお父様と急に決闘することになったこと、その時に疲れからか横になったこと、そしてなぜそもそも闘ったのか分からないことを告げた。最初は怒りをぶつけてきそうな勢いだったのだが徐々に困惑に変わっていった様子だった。


「とりあえず分かりました。セトの合格はあなた方の力があってこそでした。ありがとうございました。ソフィア様も合格おめでとうございます」

「結構周りは暗くなりましたが、ソフィア様たちはどうなさいますか?」

「あの森の中を夜突っ切ろうと思っています」


 私の返答に難しい顔をしてニア様は今の村の状況を話す。


「それなんですが、ここ最近なぜか魔物の動きが活発になってきている気がします。この前も村人が一人、軽く森に入っただけで前まではいなかったはずの魔物に襲われた事件がありました」

「ソフィア様、ここ最近確かに魔物の出現が増えてきているそうです。マルクスさんの調べによると都市部のほうが何故か活発らしいですが」


 受験勉強に集中していてそこらへんの情報収集が甘かった。マルクスから軽く注意を受けてはいましたがセト君の村にも影響が出始めているとは。


「もしよろしければ、今晩はうちで泊まりませんか? 狭いですけど」

「本来は申し訳ないんですが、そうさせていただけるとありがたいですね」

「もちろん、今までセトがお世話になったのですから全然大丈夫ですよ」


 セト君のお母さまのご厚意により危険な夜の森を抜けなくて助かりました。

 セト君を布団に運んだあとは、ニア様とお母さまと受験の様子や普段のセト君の様子を話したりそしてセト君の小さい頃の話などを話してくださったりし、女子会と呼ぶべきものを経験できた気がします!



「これまでの人たちについてどう思いますか」

「まあ、一癖ありそうなやつらだがソフィアにとってそこまで悪影響を及ぼすとは思えないな。セトもいるし大丈夫だろう」

「私もそれには同意です。しかし、この人物はどう思いますか」


 主人(ルドルフ)へソフィの同級生になる方々の中で気になる人物を使用人がリストアップしていっている。面白そうな子たちが多い一方で夫の言う通り特に気を付けなければならない人はいなさそうね。


 しかし、最後に提示したキャッシュ家の一人息子クリフを見た時、夫の顔が明らかに強張る。


「このクリフ・キャッシュは粗暴で平民を酷く見下しているきらいがあります。そしてそれを止める人もいないようです」

「こいつの場合は親が厄介だ」

「問題の父親は悪魔に取り憑かれているとの噂もあり、息子もそうなのではと言われていますが…」

「あいつは悪魔に屈した訳じゃない。だからこそ厄介だ」


 そう言うも、先手を打って対処できる相手でもないのが歯がゆいところ。もしあの二人がキャッシュ家の子に絡まれた場合にはソフィとセト君で何とかしてもらうことを期待するしかないように思います。


 どうかそんなことは無いように。

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