17話 久しぶりの神託
今、避けていなかったら確実に死んでいた。そう思わせるほどの威力がある。地面から舞い上がった煙はようやく落ち着き始めてきている。
深呼吸を十分にし、平静を取り戻してソフィのお父様と向き合う。オーラが凄い、元より体が大きいのにさらに大きく見える。
「…いきます」
「来い」
剣を握りしめ間合いを詰める。
その勢いのまま胸をめがけて突く。そんなものは初歩とばかりに刀身で軽く右にいなされる。突進の勢いを殺し、いなされた刀をそのままルドルフさんの右肩から左脇腹に沿って袈裟斬りを行う。
ほう、と声を漏らしながらもルドルフさんは難なく防ぐ。
「くっ」
剣術はやはりだめそうだ。
距離を取り自分のエネルギーを電気出力に変換するよう集中する。
魔法については未だ不明なことが多い一方で定説もある。魔力と呼ばれる体内が持つエネルギーを炎や電気といった出力に変換しているのではないかと言われているらしい。
つまり、魔力に何かしらの加工を施して電気や熱にしているイメージらしい。その加工方法について人それぞれ得意不得意があるため、氷魔法や治療など得意不得意が出るらしい。
まあ、例外もたくさん見つかっているけど。
「打ってこい」
ルドルフさんは魔力変換の邪魔をせず受け止めるようだ。その言葉に甘えさせてもらい十分に電気を貯め、一直線に放つ。その直後に間合いを詰める。直撃はせずとも電気の流れで少しでも感電してくれたら儲けものだ。
「ッ!」
まさかの直撃だった。
ルドルフさんも魔法の準備をして相殺するか避けるかの二択と思っていたが、そのまま高電圧を喰らった。剣を地面にさしてある程度は地面に電流を流してはいるがそれでも動けないはずだ。
「よし!」
この機を逃すまいと懐に入り真一文字に斬りかかる。
『行動回数増加』を発動
え? 勝手に神託が発動された。なぜ?
そんな疑問を余所に脳内にその後のイメージが詰められていく。
真一文字に腕を振り始めると同時に、冷たく鋭い風を手に感じる。その風は勢いと範囲を増していき、腕に体に、そして顔にまで感じられるようになる。
振り始めた腕はもう止められなく、もはやかまいたちにまで成長している空気の中を腕は高速で駆け抜ける。見上げるとさっきまで雷のような電気に打たれてうなだれていたはずのルドルフさんは俺の持つ剣の真ん中を狙い、自身の愛刀を振り下ろしていた。
そのまま俺の剣は打ち砕かれ、残るのはルドルフさんにはもう届かない剣とそれを持つ腕のみ。その前腕を容赦なく鋭くとがった風は痛めつけてくる。
無数の猫の爪で深くじゃりじゃりと服や皮膚を裂いていく。そして前腕だけでなく腕全体にまでその様相は広がる。
折れた剣を振り終えた時には、無数の切り傷が両腕を覆っている。
「あああ、ああ」
痛みを感じてしまった瞬間、ショックで声を漏らしながら崩れ落ちてしまう。
気が付けば真一文字に振り払う前の光景に戻っている。よく見るとオルトロスと戦った時と同じく周囲はスローモーションになっている。
落ち着いてルドルフさんを観察すると、分かりづらいがこちらに目を向けて確かに機を伺っていることに気づく。
――近づくのは一旦やめよう
スローモーションの中、急いで炎に変換しルドルフさんめがけて放つと同時に反動をつけて距離を取る。
その瞬間、周囲の流れる速さが元通りになる。
「な!?」
流石にあの状態から魔法を放つとは思っていなかったらしく正真正銘の直撃をくらった。その状態から剣を支えに立ち上がりこちらを見つめてくる。
「よく、あの状態が罠だと分かったな」
「正直分かりませんでしたが、なんとなく避けました」
とっさに嘘をつく。先の映像を思い出し、自分の両腕を見つめて傷が無いことに安堵し再び剣を構える。また、オルトロスの時のように倒れるわけにはいかない。
ルドルフさんについて分かったのは風魔法を使うことだ。恐らく地面を抉った最初の攻撃も風魔法の類だろう。実際、さっきまではなかったはずの気流を今は体に纏わらせているのが見て取れる。
「真一文字に払おうとしてからの魔法発動を行った身の動きに違和感がある。もう一度見せてみろ」
神託が発動したということは完全に自分をほぼ殺そうとしていたレベルだ。これに応えられなければ本当にやられるかもしれない。しかし、それでも、…。
「お父様、もういいじゃないですか。それ以上やると…」
「ソフィアは離れていなさい」
ソフィアがルドルフさんに掛け合っているが取りつく島もない様子だ。それが分かると今度はこっちに来た。
「セト君、やめましょう。これ以上やってもお互いケガするばかりです」
「すまない、ソフィ。何かつかめそうなんだ」
今まで何回も考えてきたことがある。神託発動時のあのスローモーション。あれを能動的に使えればとは思っていた。しかし、今までそれをする前に相手を負かしてきてしまっていたし、フェレルさん相手にいきなりやるのも忍びなかった。
しかし、今回は違う。ルドルフさんが先に罠を仕掛けてきた以上やり返すのにためらいもないし、格上とあって試すにはよい状況だ。ここで出来なければ今後できない気がする。
「分かりました、ただ大きなけがを負わないでください」
俺の決意を感じてかしぶしぶソフィが引き下がる。
今のルドルフさんに真っ向勝負での剣術は敵わないし、おそらく魔法でちまちま攻撃も許されないだろう。魔法と組み合わせた剣術も、さっきのイメージみたいに防がれる未来が見えている。
――ならば、完全に意識の外から攻撃するしかない!
魔力を炎に変換する。ルドルフさんの全身を飲み込むような大きさの炎を先に放ち、それに追随するかのようにダッシュし縦に剣を振り下ろそうとする。
「またその方法か」
今度は風で俺の炎をかき消し、振りかぶった剣を止めにかかる。
――ここだ
炎をかき消したため風の流れが一瞬乱れた。ここで決められなければ剣を受け止められて、今度は全身を風に切り裂かれてしまう。しかし、剣を既に振り下ろしてしまったためここから無理に剣の軌道を変えても体勢が崩れてしまうだけだ。
頼む、来てくれ。この捨て身の攻撃しか勝つ手段がほぼ無いに等しいんだ。
どんどん体に感じる風の勢いが増してきている。かまいたちにより切り裂かれる間合いに入っているのが分かる。
風の勢いが増してきているのを感じる。
もうだめか、と思っていると不思議に感じる。こんなにも風の勢いが増してきているとか分かるものなのか。
気が付くと、さっきの神託が強制発動された時ほどではないが腕の振りが遅く感じる。
まさか、これは
「『行動回数増加』発動」




