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15話 表と裏の様子

「「おかえり!」」

「お帰りなさいませ」


 家族の二人とマルクスさんが出迎えてくれる。あれ? 母さんとニア姉さんもいる!?


「明後日の合格発表まではここにお世話になるのでよろしくね」

「その後は合格でも落ちてても村にいったん帰ってゆっくりしようか、セト」


 出迎えてくれた家族の温かい言葉が沁みる。

つい半年前まではこんな入試なんてやるとは思っていない状態からここまで頑張ってきた緊張の糸がほどけてしまい思わず感涙してしまう。


「ただいま!」


 ソフィたちの前にもかかわらず二人に飛び込む。ソフィやマルクスさんは笑って先に館の中に入り俺たち三人だけにしてくれた。プロヴァンス邸の人々も優しかったのも頑張れた要因として大きい、後でお礼をしなければ。



 皆で夕食を食べた後、特にお世話になったマルクスさんとフェレルさんの元にソフィと向かう。二人はいつもフェレルさんに稽古をつけてもらっていた敷地外の広場で待っているとのことで向かう。なんで館の中じゃないか疑問に思いながら外に出る。


 稽古は遅くとも陽が沈む前には終わっていたからか、いつもとは違う暗く不気味な雰囲気である広場の様子には少し気を張る。灯りはソフィが光魔法で軽い光源を生成してくれている。こういうのはソフィのほうが得意だったから任せている。


 ついに目的地に着くと二人が待っていた。


「今日は疲れただろう、よくやった」

「ありがとうございました。フェレルさん、マルクスさん」


 フェレルさんはいつも通りの落ち着いた様子で話しかけてくれる。そして周りを一望して聞いてくる。


「周りを見てみろ。ここでさえかなり暗いのにあっちの山や草原はもはや真っ暗だ。前も言ったかもしれないが夜には魔物が徘徊する。怖いか?」


 言われて周囲を見回すと暗闇の中に何かが潜んでいそうな恐怖が出てくる。そこらへんにソフィを襲ったオルトロスがいると思うとぞっとする。


「お前が倒したオルトロス級はそうはいないが、奴らはありとあらゆるところにいる。ただ、今までは人類のほうが押していて昼には表にでていないから安心できた」

「ただ、最近、といっても数年前から言われていたのですが魔物、ひいては悪魔の存在が顕著になってまいりました。最近でも魔物に襲われた村や、急に悪魔に乗っ取られたかのような言動をする人も増えてきました」


 マルクスさんが悪化する現状を伝えてくる。ソフィも緊張した面持ちで話を聞く。


「学院では課外授業というものが結構な頻度である。別にそれらの魔物どもを避けろとは言わないしむしろ積極的に排除しろとは思う。一方で、深追いや一人で抱え込むのはナシだ。その意識さえ持っていればお前らの実力的に無事でいられるだろう」

「つまり、周囲の人や我々プロヴァンス邸の人間を容赦なく頼ってくださいということですな。別に悪魔関連以外にも学院の日常とかのことでも」


 それらを言い終わると冷えますから早く戻りましょうと言い、館に戻る。まだ言われた内容にピンとは来ていないが心に留めておこう。





 試験後のトレイン学院にて。


「今年の受験生はどうじゃ」

「結構優秀な層だと思います」


 かつてはトレイン学院がおかれているカルバラ国のトップである女王へ進言する相談役を任されていた学院長である老齢の男性、シエイフが問う。

 それに対し社会科目のトップである女教員バスターミが答える。


「そんなに早く採点が終わるとは、流石社会科は優秀ですなぁ」

「シュナイド先生、そう嫌味を言わないで上げてください。物理科や化学科とか科学もどうせ例年通り採点はほぼ終わっているのでしょ」


少し筋肉質な肉体を持ちさっぱりした髪に仕立てている科学系の管理を担っているシュナイドが嫌味を吐く。それを未だ採点が終わっていない国語科のトップ、シブリー教員がたしなめる。

 丸々一問解けない問題を作ってやらかしたバスターミは言い返さず別の話題を提供する。


「ただ、貴族以外の方の出来が良くなってきている気がしますね」

「それはうちの数学科でも同じ傾向ですね」


 白髪で背の高い好々爺のヤコブ教員が賛同する。この見解には科学科(シュナイド)もうなずきで同意する。


「平民と言えば、魔法試験で面白い子がいたと聞きましたよ、ハルジ先生」

「…おそらく、俺が最初らへんに採点した男子のことか?」

「そうですね。えーと、受験番号812のセト君です」


 保険科を取りまとめており試験では実技の採点官も担うアビールが、セトの採点を担当した魔法科長ハルジへ確かめる。


「現場では騒々しくなり、あなた以外の採点官も後で噂をするくらいでしたよ。電気を操る魔法なのに威力を無駄に分散させず綺麗に的に向かっていったという話じゃないですか」

「ほお、それは凄い。うちに今までいそうでいなかったタイプだな」


 セトの魔法に思わず学院長はニヤリとする。


「まあ、驚いたからといって採点が正確になるわけではないですし驚く必要はないでしょう」

「本当に、ハルジ先生は実技に興味がないですね」


 ハルジの答えにアビールは冷ややかな目を送る。アビールはハルジを放っといて別の議題をやり玉に挙げる。

 

「話は変わりますが、例年上がっている議題として人物試験を導入したほうがいいって声が体術の採点官をする学生からちらほら上がっていますよ。明らかに態度悪かったり相手を見下していたりする奴にも高得点を与えなきゃいけないのは嫌だと言う学生は多いです」

「受験生は約900人だぞ、出来るわけなかろう」

「それに、学生より先にやるべき教員がいるとは思いますけどねぇ」


 シュナイドの現実的な反対に乗じて、社会科バスターミが今度は反撃とばかりに嫌味を言う。ちょっとした小競り合いが起きるもののすぐにさえぎられる。


「この学院は格式が求められる騎士育成学校でもマナー専門学校でもなく、どちらかというと研究がメインの学院である。よって儂は不要だと考えている。学生からの意見はもっともだが、そのような問題は入学後に対処すればよいと考える」


 学院長シエイフの発言により一蹴されたことで会議は沈黙する。

国語科シブリーがその流れを見て離席する。


「国語科はまだ採点が全然終わっていないので戻らせていただきます」

「本当に難儀だねぇ、もう少し採点が楽な択一式を多めにすればよいのに」

「これは国語科としての矜持です。では」


 忙しい国語科が抜けた後は、教員同士でセトの体術の様子や、他の平民の実技の度合い、そして全受験生で面白そうなやつの話を肴にした酒盛りが始まってしまう。

後にうるさいと国語科総出で怒られてしまうのは別の話。

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