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13/21

13話 入試①

 試験当日は雲一つない快晴の日だった。入試に向けて最後の追い込みがあったとはいえ家族と会ったのがもう一か月以上になるとは信じられない。ソフィと顔を合わせるといつもは朗らかで元気な様子も今日はなりをひそめ緊張した面持ちである。

 準備をすませ二人で玄関を出るとマルクスさんとフェレルさんが目に入る。


「いいですか、お二人とも。いつも通りの実力なら必ず受かります。それはこのマルクスが保証します。解けない問題が今年もどうせ出るでしょうがそれに引っ張られてはなりませぬ」

「合格者数が約200人、受験者数がだいたい900人前後で倍率が5倍近くであると考えると厳しいかもしれません。しかし所詮は自分の実力次第。期待してますよ」


 そう激励してくれる。出立の準備をしてくれていたアリサさんを含め、ソフィと三人で馬車に乗り込みトレイン学院に向かう。正門を馬が駆けて出たとき、ふと本邸の二階を見るとソフィのご両親であるルドルフさんとマリーさんもこちらを見ている。マリーさんに至っては軽く微笑みながら手を振ってくれていた。

 ソフィも二人に気づいたようでふふっと笑って手を大きく振り返したのをみて、俺も慌てて手を振り返した。


 少し走ったところでソフィが苦々しい顔で話を始める。


「前にも聞いたかもしれませんが、トレイン学院、というよりは全体の傾向として貴族のほうが平民よりも成績が優れていると言われています。そのため、別に学院全体が迫害や差別をしているというわけではないですが平民が試験を受ける際には、どうせ大したことないという雰囲気があります」

「ありがとう、ソフィア様。でもその空気にのまれないように特訓をしてきたつもりだ。お互い頑張ろう」

「はい、セト様と一緒に学院に通うことは当然だと思っています。頑張りましょう」


 そういい、俺は苦手な社会と魔法の知識の見直しをはじめ、ソフィは過去問で苦手な問題を総ざらいする。アリサさんはいつものクールな表情の中に不安を混ぜながら軽く祈りをささげるようなポーズを無意識かは分からないがとっている。



 試験前特有の独特な緊張ムードの中、試験開始の30分前にトレイン学院に着く。ここの受験生は900人もいるため既にかなりの人であふれている。今年度の試験は実技を行った後筆記試験を行う流れである。実技は魔法測定の後、魔法を使わない体術を行うとのこと。

 

 正門をくぐると看板や、ここの学生と思わしき人たちがなんとか大量の人を捌いている。

俺の受験番号は812でソフィは140であった。全く同じタイミングで申し込んだのになぜこんなにも受験番号が離れているかは正直謎だが、このせいで魔法測定の会場が全然別のところに案内される。


ソフィと軽いお別れを言い、流されるがまま案内されていると声をかけられる。


「おっ! セトじゃ~ん。奇遇だね」

「おはよう、ミスリィ。ミスリィもこっち方面? 俺の受験番号は812だけどそっちは?」

「近いよ、832だね」

「もしかしてこの受験番号って貴族か否かで振られているのか?」


 平民友達の受験番号が近いとそう勘ぐってしまうがあっさりと否定される。


「いや、そんなことはないよ。ほら周り見てわかると思うけど商人で成り上がったっぽくなくなんか貴族オーラ? の人もいるっしょ。例えばあの人とか紋章を服に着けているでしょ」


 流石に平民出だからどこの人とか完璧には分からないけどねぇ、と続けている。確かに周りをみればそれっぽい人たちがたくさんいる。となると本当にどういう基準で受験番号を振り分けているか謎だな。


 そんなことを考えているとミスリィが近づいて小声で聞いてくる。


「そういえば、結局神託について何か分かった?」

「いや、結局分からなかった。フェレルさんとの訓練でも全然つかめなかった」


 ソフィが言っていた通り神託を積極的に使おうと努力はした。努力はしたが、神託の内容が分からない以上何をどうやればいいか、心持ちをどうすべきかまるで謎でがむしゃらにやった。その結果、結局は分からないというなんとも情けないことになってしまった。


「まあ、トレイン学院は性質上、下に合わせた授業ではなく教員がやりたい授業内容になりがちだから結果として上下の格差が広がるんだよね。だから上の奴らと手合わせをすれば何か見えるかも」


 そう言って励ましてくれる。なんだかんだやっぱり良い奴だな。


 ミスリィと話しているとようやくお目当ての広場に到着する。指示によると30人ずつのグループにまとめられ順次試験を行うらしい。俺のグループは811~840の受験番号である。ここでもミスリィと同じである。


 試験の内容が看板で説明されていた。

今年は30メートル離れた的に魔法を打ち当てる様子を見るとのこと。制限時間が決まっており20秒以内ならば何度魔法を打ってもいいという至極簡単なルールである。

――的の耐久性にもよるが行けるな。


 ミスリィも余裕そうな表情をしている。

試験開始にはまだ時間があるためミスリィと話していると何だか嫌な目線を向けられている気がする。それとなく周りに気を配ると確かに聞こえてくる。


「よく来るよ、平民が」

「まあ、記念受験になるしいいんじゃね」


 ひそひそと平民への悪口が聞こえてくる。いつぞやに聞いた話だと一学年200人中30人くらいしか平民はいないらしい。グループをざっと見ると他にも平民らしい格好の子が何人かいる。周りからの嘲笑を必死で聞かないようにしている子や自信を既に失っている人もいる。


 ミスリィはまったく気にしていない様子で安心した。

 すると、試験開始時刻少し前になったとのことで受験番号順に並ばされる。周りが一瞬で静かになる。試験採点官がぞろぞろと入ってきた。

 

 このグループの採点官を見ると、驚いた。一か月前の学院見学でたまたま見た女学生に指示していた男性教員だった。あの時と変わらず高圧的そうな人である。

 全採点官の準備が揃ったところで開始の合図が始まり、グループごとに採点が始まる。


 俺は812なため二番手である。一番手の様子を見ると、始めは30メートルの距離感に苦しめられていたが何とか風魔法を的に当て安堵しているようだ。

 一方で、採点官は表情を一つも変えずに点を付けているようだ。少し怖い。


「次」

「はい、受験番号812のセト・ブラウンです」

「お前は確か学院見学に来ていたな。あの時は貴族と思ったが平民だったか」


 あの一瞥だけでこっちのことを覚えているとは。しかし、最後の平民うんぬんには腹が立ちつい口を滑らせてしまう。


「そうですが、平民と貴族で採点に差をつけるのですか?」

「そいつが平民か貴族がどうかで差をつけるほうが面倒くさいだろ。いいから、早く試験に取り掛かれ」


 さらっと返される。採点官としては優秀かもしれないが、はっきり言って関わりたくないタイプの奴だ。


むかむかする気持ちを徐々に魔力に変換し蓄積する。的に向かって正面をとり正確に打ち込むイメージを持つ。大丈夫だ、フェレルさんとの訓練で何回もできている。そして自分が最も得意とする魔法属性も見出だしたんだ。

整ってきたところで一気に電撃を放出する。


 電撃は一直線に的に向かって終ぞ中心に到達。そしてそのまま突破し、的をいくつにも割る。

――よし、行けたぞ!


 そう思ったのも束の間、別のことが気になってくる。

やけに周りが静かだ。

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