1話 転生先
ここはユーメリ大陸の西側に位置するサコン国。
特に目立って発展しているわけでもないが原始的な生活をしているわけでもない大陸から見たら郊外と呼ぶにふさわしい国である。すぐ東に隣接するガルド国はその反対にかなり栄えており大陸の中でも発展しているほどである。
サコン国の中では栄えているハインという都市もあるがガルド国に比べたら比べ物にならないくらいである。
そんなサコン国のさらにハインから外れた辺境の森の中で狩りをしている青年がいた。
「こんなもんでいいか、これで何日か分の食糧にはなるだろう」
十五歳になって三か月、前世の記憶を思い出してからそんなに経つのか。剣の技術はそこそこ上がったが魔法がまだまだだな。しかし、あの神託を使わなくてもいいほどには成長しているぞ!
そんな風に思いながら荷物をまとめ、ナッツ村にある家に帰る。
商人として大成し金持ちになった父を持つ家族が住むとは思えない質素な家に帰る。
「お帰り、セト。いつもすまないね」
「お帰り、毎日ありがとうね」
「ただいま、母さん、ニア姉さん。こっちこそいつも家事や内職ありがとう」
僕ことセトは末っ子であり、穏やかな雰囲気を纏いながらもきりりとした眉を持つ母シャーリーと、長く美しい銀髪が特徴的で柔和な笑顔を浮かべる五歳年上の長女ニアと三人で暮らしている。他の家族としては、忌々しい父バトスと、ある日家を出て行ってしまった次女ルーニャがいる。
「今日はお隣のミレイさんからお野菜を頂いたからこれも食べましょう」
「分かった母さん、持ってきたクマとかばらすからニア姉さんはその後の処理お願い」
「もちろんよ」
そうして食事の準備ができ、みんなで囲んで食べる。
「「「いただきます」」」
うちは確かに貧乏だけど今の生活は結構気に入ってはいる。そう思いながら近況や今日あったことを話す。けがや病気を山の中でしてないか尋ねられたり、自分が家族のために無理して狩りをしているのではないかと心配されたりしたが自分としても強くなりたいがためにやってるし最近はけがもなくいい感じだと言っておく。
夕食もそろそろ終わるというときにふとニア姉さんが尋ねる。
「そういや、あの神託、えーと『行動回数増加』だっけ? について何か分かった?」
「ごめんね、ニア姉さん。まだよく分からないや」
「そっかそっか、まあ神託なんて気にしなくていいしね。私なんて『穴掘り』だよ、穴掘り。そんなにすること無いって」
「ニア姉さんのそれは本当にどうしようもないね」
「ひどい!」
そんなやり取りを見て母さんはクスクスと笑う。
しかし、ニア姉さんの質問に対して僕はうそをついた。本当のことを言ったら絶対に心配させてしまうのが目に見えている。今でも神託の儀の様子は思い出す。
――セトの神託は、『行動回数増加』? と出ました。
村には神父さんがいなかったため隣村まで行って神託を受けてきた。
神託の儀には神父さんと家族以外は立ち会うことが出来ず、親しい人にしか自分の神託を明かさない人も多い。
そんな重要な儀式中に手慣れていた神父さんにとっても俺の神託があまりにも意味不明なようでたどたどしくなっていた。もちろん、俺含め家族もみな困惑していた。
「意味が分からんな」
俺の神託が何か確認し使えそうなら俺を引き取り手足として使おうと画策していた父があきれ返りそのまま教会を去っていったのも本当に腹立たしい。
母さんとニア姉さんは「これから分かるよ」と慰めてくれていた時、前世の記憶が戻った。
(何でこんな場所にいるのか、これは何が起きているのか⁉)
懐かしいな、あれから日がたつのは早いな。そう思い出にふけっていると、ニア姉さんがある話を切り出した。
「お母さん、父から一応お金来てたけどどうする?」
「使いましょう、変な意地をはってあなたたちを苦しめたくないもの」
「僕は、そのお金使うの嫌だけど、でも…」
「ごめんね、セト、ニア。 こんな環境にして」
「「(お)母さんのせいじゃないよ!」」
僕とニア姉さんは慌てて否定した。
僕が生まれる前に父は母や姉さんたちを置いてサコン国の都市部ハインに行った。
その理由を母さんは教えてくれなかったがニア姉さんがいつの日か教えてくれた。
ルーニャが生まれた際に父を含め周りの人々は悪魔の片鱗をルーニャの中に見出したのが原因らしい。
ルーニャが三歳や四歳といった全然子供の時から家の周りにダンゴムシやイモムシといった虫の死骸が散見されるようになった。そこからどんどんエスカレートしていった。蝶やカエルの死骸も見つかり近所では怖がる人々が出てきた。父はルーニャが自室にいないときに侵入し部屋を調べ、アリを詰め込んだ箱や魚の死骸を入れた空ビンを見つけ出した。
父は母と話しあい、ルーニャをどうするかで揉めに揉めた末、母は子供たちを自分一人で育てることにし、父は家族を置いて都市ハインに移った。その際にルーニャの痕跡を残したくないと言い住んでいた家を売りに出して、母に多少の金を渡したという次第であった。ルーニャの神託の儀には、ルーニャに会いたくないのか父は参加をせず、我関せずを貫いていた。
そんな風に家族が離れ離れになり家もなくなったとなれば近所に噂が立ちあの家族が呪いの正体だといわれ嫌がらせを受け、仕方なく今のナッツ村に引っ越したという流れらしい。その後は、四人で生活していたが僕が十歳くらいの時に何も言わずにルーニャはどこかへ行ってしまった。
(だからと言って母さんにこんな生活をさせていいわけではない!)
そう思うも今の自分にはどうすることもできないのがもどかしい。父がハインにいることは知っているがそこまで行っている暇もなく歯がゆい気持ちだ。
こっちの世界でもやはりこういうクズはいるのか。いつか父を見つけだし母の目の前で土下座と今までの補償をさせてやる、と思いながら明日の予定を計画しながら眠りにつく。
◆
神「せっかく『行動回数増加』を与えてやったというのに全く使おうとしないではないか。ワシも初めて与えたから存分に力をふるって欲しいというのに。なんと嘆かわしい」
女神「ちゃんとどういう風に使えばいいか教えたの?」
神「無論じゃ、こちらの世界に転生させる前に教えたわい」
女神(多分、生と生の間の出来事は思い出せないんじゃなかったかしら。まあ、今更伝えてもどうしようもないし黙っとこ)