第9話 私の光
あの時一兄がどうやってかマンションのエントランスを突破して父の部屋に直接やってきたのは、直前の私の様子が気になったからだったという。
父は私と自分の着衣をしっかり整え、部屋の窓を開けて換気までしてから玄関に出たが、無駄な努力となった。
私が全て白状してしまったからだった。『お父さんと美琴だけの秘密』を。
「私たち、セックスしてたんだよ」
◆◆◆
私の感情は、輝いているだろうか。
少なくともあの時よりは。
「ねえ悠里ちゃん」
「ん?」
「一兄と結婚するの?」
「ブッ」
お茶を吹き出すなんて漫画みたいなリアクションだ。悠里ちゃんはこういう時、期待通りの反応をしてくれる。
「ままままだ私たち学生だよ!」
「でもおいおいするんでしょ? ユカちゃんもジロパパもそんなこと言ってた」
「えええ」
「そのための同棲なんだよね」
「あああ」
「同棲しても、遊びにきてね」
「う、うん、それはもう」
「お泊りもしようね」
「うん」
私と父のあの騒動は、大人たちの手によって迅速に処理されていった。私は深くは知らない。産婦人科に連れて行かれて、そこで警察と医師からいくつか質問されただけだ。ほんの数週間前のことだけど、はるか昔のように感じる。時間が濃縮されたのだろうか。
ピーちゃんと彼のお世話道具一式を私と葉月の部屋に運び込んだ日、一兄から家を出ることを告げられた。
「一人分広くなるからな。オカメインコ一羽くらい余裕だろ」
ピーちゃんのケージを置くのは一兄がいなくなって広くなった兄たちの部屋ではないので、空間が広がった実感はないのだが。要するに一兄は私に、「遠慮するな。我慢するな」と伝えたかったのだろう。小学生のころイジメにあっていた時から、繰り返し言い聞かせられてきたことだった。
「陸上部、入ろっかな」
ピーちゃんと悠里ちゃんは、まだまだノリノリだ。私の決意は聞こえなかったみたい。でもいいのだ。あとでまた、もう一回言えばいいのだから。
私の意思、私の感情。
たくさん光らせたい。
きれいに光らせたい。
眩しいくらい。
光って、光って
私のフォトン。
(完)