第6話 だいすき
楽しい時にたくさん輝いていたというのなら、ピーちゃんを飼い始めた頃の私のフォトンは、それはもう眩しいくらいに煌々と光っていたのだろう。
私の指に、肩に、嬉しそうに甘えながら羽ばたいてくる美しい白い鳥。言葉も通じないけれど、私に向けられる信頼と愛情がまっすぐに伝わってくる。こんな歓びがこの世界にあったなんて。私はすっかり夢中だった。この白い鳥がいない日常なんて、もう考えられない。
ピーちゃんが待ってるから、行かなきゃ。
ケージをきれいにしてあげなきゃ。
ご飯もあげなきゃ。
お水も替えてあげなきゃ。
呼び鳴きしてるかな。
出して、出してって。遊んで遊んでって、鳴いてるかな。
待ってて。
今行くから。
今行くよ。
大好き、ピーちゃん。
大丈夫、大好きだからね。
◆◆◆
いつからこうなったんだろう。
私の感情意識。
いつから光らなくなったのだろう。
いつから? いつから?
もうちっとも光らない。
見えないけど、分かるよ。もうちっとも、チラとも光らない。
――――いつから? 本当は分かっている。他人の感情の境目は分からなくても、感触の境目は他人のものであっても分かるのだから。
いつから?
もう光らない。
◆◆◆
「ねえ、悠里ちゃん」
まだ中学に上がる前のことだ。兄の恋人にたずねようとしたことがあった。この質問をするなら、親族の外側にいる人の方が正確だろうと思ったのだ。それに、学校の友達には聞けない。聞いてはいけない。これは禁忌だと感じていた。
悠里ちゃんは友達とも言えるけど、それ以前にお兄ちゃんの彼女で、家族という枠組みの外にいる。けれど信頼をおける“大人”でもあるから、聞くなら彼女しかいない。何となく、そんな確信があったのだ。
「聞いていい? あのね……」
悠里ちゃんは、ニコニコしたままいつまでも私の質問を待ってくれていた。「あのね」「えっとね」から一向に核心へと進まない私を、ちっとも急かすことなく。
「あのね……」
結局あの時、彼女に質問することはできなかった。どんな反応されるのか――驚異か、幻滅か、怒りか――怖かったから。「やっぱり今度にする」と言ったきり、その今度は未だにやってこない。
あのね、悠里ちゃん。
私はあの時、こんなことを聞きたかったんだ。
ねえ悠里ちゃん。
お父さんとキスするのって、普通のことなの?