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第3話 おとうさん

 そう、私は案外大丈夫。家庭が複雑でも、実の両親がそばにいなくても。


 実の両親。


 母のことはもういいのだ。

 記憶にほぼ登場しない母。もう吹っ切れている。というか、思い出がないのだから最初から吹っ切れるもなにもないのだ。


 実父(ほんとうのおとうさん)について。


 実は私の実父は、ジロパパほどでないにしても、割と近くに住んでいる。面識もある。

 電車でちょっと行った近隣の市。駅からほど近い単身者用のマンションに、私と血の繋がりのあるその男は住んでいる。


 母と付き合う前から。

 私が生まれたときも。

 母と一緒に私を祖母の家に置いてきたときも。

 その後も。今までずっと。


 そのマンションの同じ部屋に、彼は住み続けている。


 父は、たまに私に会いにやってきた。数カ月に一度、他の兄妹や祖母や叔父、ときにはジロパパも一緒の場でお互い近況報告したり、当たり障りのない会話を繰り返した。


 私の方から彼の家を訪れるようになったのは、十一歳になった頃だ。

当たり障りのない会話はそのままだが、わざわざ近況報告するほどでもないほど、頻繁に会うようになった。


 きっかけは、私の十一歳の誕生日祝いにと、彼が一羽のオカメインコを飼い始めたことだった。


 ピーちゃん、というひねりのない名前をつけられたオカメインコは、全身真っ白で赤目のアルビノだ。種の名前の由来でもあるオカメらしいオレンジのチークパッチはないが、頭の上の冠羽はふさふさで、毛先のくるりんとしたシルエットが美しかった。


 私は動物が好きだ。でも家では、ただでさえ子どもの数が多くてゴチャゴチャしているのもあって、ペットを飼いたいとは言い出せない雰囲気があった。そんな話を実父の前でこぼしたことがあっただろうか。記憶にないのだが、どういうわけか彼は私の誕生日祝だと、ピーちゃんを店から迎えた直後、小鳥の入った小さな小箱を、私に差し出してきたのだった。


 しっかり記憶に刻み込まれている。こちらを見る小さなまん丸の目と、警戒してピンと立ち上がった白い冠羽。怯えているのが一目瞭然なのに、なんて愛らしいのだろうと感動した。


 私はピーちゃんに一瞬で心を奪われた。インコに夢中になった。


 実父のマンションにピーちゃんのケージが置かれると、自然と私の方からその部屋へとほぼ毎日通うようになっていた。


 学校が終わると、私が合鍵で部屋に入ってピーちゃんの世話をした。ケージを掃除し、餌と水を替えてやり、外に出して一緒に遊ぶ。たまに葉月と晴太も来た。とても楽しい時間だった。毎日の放鳥時間は一時間程度だが、一瞬で過ぎ去ってしまう。ピーちゃんは最初一ヶ月ほど警戒してケージから出てこようとしなかったが、今ではすっかり私に心を許して、玄関先から私の気配を察知すると、「ホイヨホイヨ」と呼び鳴きし、ケージの入口を開けると真っ先に肩に飛び乗ってくる。オスだったようで、教えた通りに口笛を真似して歌を歌ってくれる。とてもきれいな歌声だった。


 そして父が会社から帰宅すると、少しだけ一緒に過ごして、ピーちゃんをケージに戻し、私はマンションから家へ帰る。それが二年前からの日課だった。


 父のマンションから最寄り駅まで行くと、叔父か兄かユカちゃんのうちの誰かが迎えにきてくれている。私は彼らの姿を見て、決まってほっとするのだった。実父への一握りの罪悪感と、もう一つのよくわからない感情とともに。

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