0.5話 ちょっとした歴史
「悪魔。悪魔とは、謎多き生物。どんな姿をしているのか、どんな声をしているのか。それを知る者はもうこの世にいない。
何をしに何処から来たのか、それを知る者は誰一人いない。ある小説には西暦2000年くらいと記されているが、本当はかなり昔から悪魔はいた。悪魔は人を食べる。そして悪魔は変化する。そう人へと。どれだけ捕食しようとも完全な人間には成れない。しかし、人々の群衆に紛れる事なら、さほど難しい事でもない。悪魔は人にも動物にも成れる。捕食をし、変われるだけの力があれば。悪魔は能力者を嫌う。
能力者。能力者、それは普通の人間ならざる事ができる者。肉体、精神、知能。全てにおいて人より勝る者。能力者は自分を嫌う。
無能力者。一般の人々は嫌う。悪魔も能力者も。自分より優れた者や得体の知れない者に、彼等は恐れる。これまでもこれからもそれは変わらない。彼等は自分達より上の存在を認めない。故に…殺す。
昔。ほんの少し前のお話。ある村のある夫婦、その二人の子供。その二人の夫婦は子供を天から授かる。村の人達はその事を祝った。
新たに生まれてくる命に。そして生まれた子。その祝福された子供は…能力者だった。能力者とは?その村の人々はそれを知らない。何故生まれたのか?何故なのか?分からない。だがその夫婦は流れ者だった事もあり、きっと厄災をこの村に持ち込んで来たのだと思い、村の者たちはある事を決めた。
その子供を魔女だと仕立て上げて殺そうと。何も知ろうとせず、ただ恐怖に付き従い独断と偏見でその子の命を失くそうと。
決行はその子の一歳の誕生日の日に。だがその夫婦はそれに納得しなかった。我が子が、まだ産まれて間もない我が子が、訳も分からず殺される。ただ人と少し違う物を持っているだけなのに。そしてその夫婦は決心した。
我が子がこれから先、笑っていける豊かで安全な場所へと連れて行こうと、たとえ自分の命が尽きようとも。
決行日前夜。一人の男性が土砂降りの雨の中夫婦の元へと訪ねて来た。それは行商人だった。数日前から商売をしにこの町に来ていたのだ。そう夫婦はこの町の住人にバレないように我が子を運ぶには行商人しかいないと踏んでいた。
そしてその夜、作戦決行の段取りなどの話をしに、行商人は訪ねて来たのだ。話し合いは数時間も掛からず終わり、明日、早い事もあり夫婦はすぐに眠りについた。
そして決行日、運良く連日降り続いた雨も止み、快晴だった。だが何かが、おかしい。いつもなら早朝に必ず泣きじゃくる我が子が今日だけはやけに静かだった。不気味なまでに。
急いでベットから飛び起き、ベビールームに行くと、子供がいなかった。誤って落ちてしまったのではないかと慌てて辺りを見渡すが何処にもいない。いない、いない、いない。何故?何故何故何故何故。何故?何故なのか?思いも寄らない事に頭が混乱した。
泥棒?戸締まりはしっかりした。そんな裕福な家庭でもないのに何故?まだ我が子は一歳の誕生日でも無い。何故なのか分からなかった。未だ信じきれず、もう一度部屋を隅々まで見渡すと、何故か窓が空いていた。昨日の夜からずっと閉めたいはずなのに。
確認もしっかりした。行商人が来る少し前に…。行商人…。きっと何かの勘違いだと思い、急ぎ足で外の様子を確認しに行くと、なにやら広場に人が集まっていた。そして広場でとんでもない物を目にした。我が子が、我が子が、広場で丸太のような物にロープで縛られているのを。そして足元には薪がたくさん撒かれていたのだ。
そしてまわりには沢山の野次馬が群がり、そこには行商人の姿もあり、手には札束の様なものを手にして満面の笑みいる様に見えた。そう、裏切られたのだ。腐った行商人に。
その瞬間改めて知った。この世はこんなにも壊れているのだと。だが涙を流していると、声がした。我が子の声が。地に向けた目線を上に上げると精一杯泣く我が子の姿がそこにはあった。まだ生きていたのだと、あまりの嬉しさに笑ってしまうほどだった。
それと同時にこんな悲惨な現状を前にして、何も思わない村人達に怒りを感じていた。何故このような人達が生きて、我が子が意味もなく死ぬのだと。
そして夫婦はある一つの事を思いついた。最初からそうすれば良かったと後悔してしまう程に。そうこのふざけた事を提案した者、賛同した者を、皆殺しにしてしまえばいいと。
そしてその瞬間、何の躊躇ちゅうちょも躊躇ためらいいも無く、次々と群がる人々を亡き者へとしていった。夫婦は子供同様、能力者であった。だが夫婦はそれをそれを生まれてから今の今まで知らなかった。それもそのはず、能力を発動させるにはコツと努力がいるからだ。が、夫婦は溜まりに溜まった怒りが故に、無意識のうちに発動していた。能力は、爪の増強と怪力。
およそ5分程度で広場にいた人達は全て骸となった。ただ一人、行商人を除いて。いち早く夫婦の異変に気付いて一人で、逃亡していたのだ。だが、裏切り者を見逃す程、夫婦も間抜けでは無い。
運が良いことに広場は高台に作られており、不恰好に逃げる行商人を容易に見つける事が出来た。優れた身体能力のおかげで数分も経たない内に追いつき、過呼吸になりながら走る行商人の元へと着いた。
命乞いを必死に懇願するが、夫婦がそれを受け入れる事は無く、一瞬で首をはねた。こうしてこの事件の幕は閉じた。そしてその夫婦と子供の行方を知るものはいない。
この事件以来、新しく法律が作られた。その出来た法律は五つ。一つ。能力者に、嘘をついてはいけない。二つ。能力者を人として見てはいけない。三つ。能力者は全員、特定のリストバンドを付ける事。四つ。能力者を侮ってはいけない。五つ。能力者が一定数を超えたら…」「はい、そこまで」必死に熱読していると、切りの悪い所で誰かが声を挟んだ。
顔を前に上げると先生が呆れ顔でこちらを見つめてきていた。「え、ここからが熱いのに」「白石、お前読書感想文じゃないんだぞ!いつまで話してるんだ!お前が話し出してからもう5分は経ってるぞ。全く。おい!皆寝るな!今から授業だぞ!」先生が大声を出しながら手を叩くと、寝ている子たちが一斉に飛び起きた。
「面白いのになぁ」「そういう問題じゃないだろ」しょぼくれていると、右隣の男の子から指摘を受けてしまった。「で、でも黒瀬君。いいお話でしょ?」「今の内容の中のどこに良い話が出てくるんだよ」そう言うと黒瀬君は、呆れ顔でため息を吐いた。「はい、皆1時間目は体育だから先にこのプリント配っておきます。必ず名前と夢。なんでもいいから記入して書いておくように」
夢?そう言うと先生は前の列の子にプリントを渡して行った。「夢かぁー、ねぇ黒瀬君」「ん?何だよ?」「黒瀬君の夢は何?」「夢?夢かぁ・・・」そう言うと黒瀬君は、考え込むように目を瞑り目線を机に向けた。「夢と言うか目標ならある」数秒思い悩み、答えを出した。「何?何?」「探してる人…。と言うかまぁその人に会いたいんだ」「それだけ?」目を暗く濁らせ彼はそう答えた。なんというか、夢にしては呆気ない。
もっとスケールのある話が聞きたかったが、我慢だ、我慢。答えてくれただけでも感謝しなくては!どんな夢でも友達なんだから応援しなくては。「へぇ、いい夢だ…」「あともう一つあるよ」言い終わる前に被せるような形で黒瀬君が話し始めた。「へー。何?」「せ、世界を回りたい」少し小っ恥ずかしく目を輝かせ真剣な顔で答えた。何というか急に子供じみた話で何故か少しだけ安心した。「良い夢だね!叶うよきっと!」「あぁ。叶えるさ。絶対に」そして約9年後…
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