また名付けをすることになったんだが
「そういえば、どうしてニノは座敷わらしを小豆、と呼んでおるのじゃ?」
「それは、ニノさんが私に名前を付けてくれたからです。私は、この名前をとても気に入っていますよ。猫又ちゃんも名付けて貰えばどうですか?」
「ふむ。面白そうじゃな。ではニノ、我の名付けを頼む」
「え、いや、急だな」
急遽猫又の名付けをすることになった。えっと、猫又か……英語にしてもキャットし思い浮かばない。うーん、真っ白な猫、真っ白……。
「真白でどうだ? 真っ白な猫だから、真白。いいか?」
「真白……うむ、気に入った。では、今日から我は真白と名乗ろう。二人ともよろしく頼むのじゃ」
「じゃあ真白ちゃんですね! よろしくお願いします」
「よろしくなー」
と言うわけで真白に決定。我ながらよいネーミングセンスではないだろうか。小豆といい真白といい、彼女らのイメージにピッタリだ。
「あ、そうだ。夕飯の材料買いに行くの忘れてたわ。ちょっと行ってくる」
真白を拾ってきたせいでそれどころでは無かったので、今から買いに出かける。え、俺が料理できるのかって? 伊達に一人暮らしを提案してないさ。もちろんできる。
「なら、我も付いていっていいか?」
「え、真白も付いてくんの? 猫耳とかどうすんだよ」
「ふふふ、我を侮ってはいかんぞ。ちと妖力を使うが、耳や尻尾を隠すことなど造作もない」
真白が瞑想を始めたかと思えば、耳や尻尾が透明化していき、やがて見えなくなった。猫又すげぇ。
「我も俗世のことを学びたいのじゃ。ついでに荷物持ちもしてやろう」
「それは助かる。小豆、またで悪いんだが留守番頼めるか?」
「了解です。真白ちゃんは、ニノさんからはぐれないようにしてくださいねー!!」
「おい、我は子どもじゃないんじゃぞ!?」
「いってきまーす」
「あ、ニノ、我を置いていくな〜!」
「二人ともいってらっしゃい」
今度は傘を二本持ってアパートを出た。傘を片方真白に貸し、使い方を教える。
「ニノこれ、どう使うのじゃ?」
「このボタンを押せば勝手に開くぞ。急に開くから気をつけろよ」
「お、こうか!」
持たせたビニール傘を教えて通りに開く真白。喋り方は偉そうな割に、意外と素直だ。傘をさせてご機嫌な彼女に並び、共にスーパーへ向かうのだった。
「おぉ、何度か通りかかったことがあるが、入るのは初めてじゃな」
「ここに入る前に、そこにある細長いビニール袋に傘を仕舞うんだぞ」
「雨を店の中に入れない配慮じゃな」
「その通りだ」
すごい、なんかめっちゃ賢いんだが。興味深そうにビニール袋を見つめる真白の目は真剣そのもの。根が真面目なんだろうなぁ。
「今日の夕飯何にしようかな……あ、そうだ。真白は何か好きな食べ物とかあるか?」
「我は……あまり食事を取ってこなかったから分からないが、いつか人間からくすねた、“かつお”とやらが美味かったぞ覚えがあるぞ!」
「カツオ? カツオかぁ……」
今日の夕飯は和食決定だな。うーんカツオ……鰹節で良いかな? だったら冷奴に少量の醤油と鰹節を乗っけたのが美味しいんだけど。あ、白ごはんにカツオのふりかけとか良いんじゃないか? 魚本体の方は俺あんま使ったこと無いからなぁ……
悩んだ末、カツオふりかけ入りの白米、鰹出汁の味噌汁、鶏肉とごぼうの炒め物、冷奴に決定した。作る前からめっちゃ美味そう。野菜は味噌汁にぶっ込んで栄養バランスも摂っている。ちなみに、栄養バランスの管理能力は愛海によって鍛えられた。というか、話しているうちにコツなんかを自然と覚えてしまったというのが正しい。
「よし、じゃあそれぞれのコーナーを回るから、はぐれんなよ?」
「当たり前じゃ」
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はぐれた。目的のものを全てカゴに詰め終えた頃、後ろを振り向いても真白は居なかった。ものの見事にフラグ回収をして見せた彼女。店内はそこまで広いわけじゃないし、すぐに見つかるだろう。
「真白ー……って居たし」
「お、ニノ。探したぞ」
「いや、我の仲間がおったのでな。無事に送り出してやりたい」
「仲間?」
真白の手元には、猫をモチーフとしたキャラクターの飾り物。……お菓子売り場で見覚えがある。
「今すぐ返してこんかぁあああ!?」
店員さんに『手が当たって取れちゃったみたいで……』と謝罪しながら元の位置に直してもらった。商品も買って、店を出る。
「むぅ、まさか作り物とは……人間の作るものの精巧さには目を見張るものがあるのじゃ」
「あぁ。分かったら、店のもんに手ぇ出すなよ。俺が謝んなくちゃいけないんだから」
今回は不問にすると伝え、再び傘をさして帰る。半分持ってくれるとのことだったので、荷物を分けて持った。何となく、子どもを持つ親の気持ちが分かったような気がする。ただ荷物を半分こしただけなのに、こうも微笑ましい気持ちになるのはどうして何だろうな。
「おかえりなさい」
「ただいま」
「ただいまなのじゃ」
そんなことを思いながら、最近やけに賑やかになった自宅へと帰るのだった。