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なにゆえ拾った猫が猫又なのか

1日の授業を終え、放課後。


 愛海は部活へ、蓮も部活へ、俺も部活へ。ちなみに、順にバスケ部、帰宅部、帰宅部である。要するに蓮と俺は無所属。


 槍水さんもすぐにアクションは起こしてこず、いつも通りすぐに帰っていった。


「んじゃ、帰りますかね」

「おう」


 校門前まで来て、気づいた。


「そういえば俺こっちなんだった」

「あ、ニノ引っ越したんだった。そうだわ。じゃ、また明日なー」

「また明日」


 そうだ、いつもは家の近い蓮と一緒に帰っていたのだが、今日からは分かれて帰ることになる。小豆の様子も気になるし、急いで帰るか。


 心なしか雲が多い空。これは一雨降るかも知れないな。今朝の天気予報見てくれば良かった……


 俺はやや早足で帰路を行く。帰り道の途中、閑散とした公園が目に入った。なんの変哲もないその公園の茂みの側に、張り紙のされた段ボール箱があったのだ。その上、猫のか細い鳴き声が聞こえてきた。


「……まさか、こんなご時世に猫を捨てる奴が居るとは……」


 近づいてみれば、案の定『拾ってください』の張り紙で、段ボール箱の中には葉っぱがぎっしり詰まっており、その上に真っ白な毛並みを持つ子猫が居た。


「あーぁ、どうすっかなぁ……?」


 俺は頭を抱えた。悲しそうな声で鳴く声が後ろ髪を引く。しかし、我が家も一人暮らし。(ただし座敷わらし付き)家計的に厳しいのは目に見えている。確かにうちのアパートはペットOKだがどうするべきか……


 今は10月。本格的に風が冷たく感じる時期。そんな時に外に捨て置かれるなんて……


 どうすべきか悩んでいると、頭の上に雨粒が落ちてきたのを感じた。まずい、グダグダしてたから雨が降ってきちまった!?


「くっ……飼い主を見つけるまでだからな!」

「にゃぁーお」


 誰にともなく言い訳をしつつ、段ボールの中の猫を抱きかかえる。そして、制服の上着で猫が濡れないようにしつつ、全速力で帰った。

「あ、ニノさんおかえりなさい。やっぱりずぶ濡れでしたか。って、その猫は……!?」

「公園で捨てられてた。どうにも無視できなくてな……」

「……そうですか。とりあえず私が預かっておきますから、ニノさんはお風呂に入ってください。準備してありますから」

「あ、あぁ。助かる」


 雨に濡れて冷えた身体に、小豆の気遣いが身に染みる。俺が濡れて帰ってくることを見越してお風呂を沸かしていてくれるとは、気遣いの鬼、いや、座敷わらしだ。……上手いこと言えてないな。


 それにしても、あんな所で猫を捨て置くなんて、未だに信じられない。あの猫は明日にでも交番に届けて、持ち主を見つけてもらおう。首輪も付いてなかったから厳しいだろうけどな。


 存分に身体を温め、お風呂から上がる。


「小豆ー、お風呂助かった……って誰だお前!?」

「む、お前とは失礼な。我は猫又なるぞ。まぁ良い。拾ってくれたことと、座敷わらしに会わせてくれたこと。感謝するぞ、人間」

「こら、猫又ちゃん口が悪いですよ」

「えっと……どこからツッコめばいい?」


 ……新居に座敷わらしが住んでるし、拾った捨て猫は猫又でした。


-----


「……で、お前らは知り合いだったのか」

「その通り。我と座敷わらしは江戸時代からの知り合いじゃ。人間、我が友人に無礼を働いておったら許さんからな」

「猫又ちゃん、ニノさんはそんな悪い人じゃありませんよ。優しい方ですから」

「ま、そうでも無ければ猫を拾ったりせぬじゃろうし。本当なのじゃろう」


 かっかっかっ、と笑う猫又は、小豆と同じく着物を身に纏った少女だった。ただ、小豆とは違って白を基調にした着物で、並ぶと対照的だ。そして、頭には猫耳がぴょこぴょこ、二本ある尻尾もゆらゆらしていた。


「あれ? 江戸時代からの知り合いってことは、小豆の年齢は……」

「ニノさん? 触れてはいけない話題というものがありますよね?」

「す、すいませんでした……」


 女性に年齢の話は厳禁。これは人でも座敷わらしでも共通である。よって俺が悪い。


「というか、猫又はどうして捨てられてたんだ? 何かやらかしたのか?」

「ん? そもそも我は捨てられてなどおらぬ。迷子になったからしょうがなくあの箱を仮宿としておっただけじゃ」

「マジか。でも、これからどうするつもりだ?」

「よければ、ここに住まわせてはくれぬか。まぁ、家主であるニノとやらが許可すればの話じゃが。どうじゃ?」


 ……ほんまかいな。まさか俺は学生の身でありながら二人の少女を養わねばならんのか!?


「安心せい。我は人間の持つ妖力を糧とする。食費などは無用じゃぞ」

「でもなぁ、やっぱり一緒に暮らす以上は、食事も一緒に摂って欲しいんだがなぁ。一人だけ除け者になんてしたくないし……」

「一人だけ? まさか、座敷わらしも一緒に飯を食うておると言うのか!?」

「その通りです。……ふふっ、ニノさんが、一緒に食べてくれないと寂しいと言ってくれましたからね」

「小豆、恥ずかしいからやめてくれ……」

「じゃったらその、ニノには悪いのじゃが、我も同席して良いか……?」

「……はぁ、分かったよ。これはバイト大変そうだなぁ」

「猫又ちゃん、一緒にニノさんのお手伝いをしましょう?」

「じゃったら、特別に我を撫でる権利をやろう」


 そう言って、少女の姿が、先程の白い猫に変わった。抱きかかえていた時は気付かなかったが、やはり猫又というだけあって尻尾は二本あった。彼女が俺の腕の中に飛び込んでくる。もふもふとした毛が気持ちいい。


「どうじゃ? 我の毛は。しっかり整えてあるからな、手触りも最高じゃろ? ごろごろごろごろ……」


 俺が首もとなり背中なりを撫でていると、ごろごろ言い出した。というか、猫の姿でも喋れるんだな。


 ……こうして、我が家の居候が一人増えたのだった。

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