表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

なんか新居に座敷わらしがいた

よろしくお願いします。

 新居に先客が居た。


 何言ってるかわからないかと思うが、俺もよく分からない。


 あれは今朝の話。夢の一人暮らしだ、と浮かれながら新居(ただし格安アパート)の扉を開けたら、玄関に衣類の雪崩が起きていた。


「うわ、倒れちゃってるじゃん……」


 仕事がガバガバな引越し業者を恨みつつ、衣類の山を睨んでいると、ふと衣類の山がモゾモゾと動いた。


 そして衣類の山から何かが這い出てきた。


「ぷはぁ、まさか倒れて来るなんて……」

「え」


 なんと、衣類の山から和服を着た10歳くらいの女の子が出てきたではありませんか。いやおい。


「あの、どちら様ですか……? ここ俺ん家なんですけど……」

「あ、初めまして! この部屋に住んでる座敷わらしです!」

「は?」


 こいつ頭おかしいんじゃないか、って思った。めっちゃ失礼だけど。座敷わらしってアレだろ? 幸運を運ぶっていう昔の妖怪。確かに見た目はそれっぽいけど、実際にいる訳がない。


「悪いんだけど、出てってくれるかな? 俺これから荷出し作業で忙しいんだ」

「あ、お手伝いしますよ」

「はぁ、とりあえず外に出すか……」

「わっ、あっ、ちょっと!」


 俺は自称座敷わらしを衣類の山から持ち上げ、強制的に部屋の外へ。


「……ってあれ?」

「言い忘れてましたけど、私はこの部屋の座敷わらしなので、外に出られないんです」


 少女を玄関から出そうとすると、透明な壁のようなものに阻まれ、扉を潜ることができなかった。


「マジかよ……」


 俺は頭を抱えた。こいつはどうすれば良いんだ……


「大丈夫ですって、ちゃんとお手伝いもしますし、私がいればあなたは日常に小さな幸せも訪れます! だからどうか、《《今度こそ》》私を置いて行かないで下さい!」


 ここで、俺は恰幅のいい大家さんの言葉を思い出した。


『この部屋は前の入居者が、気味が悪い女の子がいる、とか言って1日もせずに出ていってね。しかも、そんなことが2、3回あったんだよね……』


 つまりこの少女は、前の入居者に気味悪がられ、何度も逃げられて来たのだろう。


 涙目で訴える少女を見ていると、なんだか可哀想に思えて来た。それに、悪い奴にも見えないし、少しくらい居てやるか、という気持ちが湧いてきた。


 ……仕方ない。どうせ追い出せないし、俺もまた引越す金無いし。


「……分かったよ。俺はちゃんとここに住む。でも、変な行動があったらすぐ出て行くだろうからよろしく」

「はいっ! よろしくお願いしますっ!」


 自称座敷わらしは、飛び上がるほど嬉しそうにはにかんだ。


-------


「それで、この衣類の雪崩は何があったんだ?」


 俺が問うと、彼女は露骨に目を逸らし、可愛く舌を出して言った。


「えっとー……てへっ」

「よし、早速仕事だ! まずはこの衣類の山を段ボールに直してこい!」

「りょ、了解!」


 事情聴取の結果、この衣類の雪崩を起こした犯人が発覚したので、本人に片付けさせる。俺は家具類を並べに行くかな……


 せっせと服を畳んでいる自称座敷わらしの横を通り過ぎ、メインとなる和室へ。俺の部屋はワンルームなので和室、お手洗い、洗面所、風呂場で出来ている。もちろん、和室の床は畳なので、寝る時は床に布団を敷くことになる。


「ま、適当に置いてくか」



 それから数時間後。


「やっと終わったな」

「はい、結構大変でしたね」

「それはお前が悪い」


 座敷わらしの協力もあって、何とか大方の荷解きを終えることができた。家具類も並べられていい感じだ。クローゼットを買っていないので服は段ボール詰めのままだが。


「よし、そろそろ夕飯の時間かな? 買ってきた惣菜たちの出番だ」


 時計を見れば今は6時半。ちょっと早いかも知れないが荷解きで疲れたし構わないだろう。


 俺は、部屋の中心にあるちゃぶ台に、スーパーで買った惣菜類を並べて行く。


「おにぎりは鶏飯と小豆飯。どっちか取っていいぞ。唐揚げとかポテトサラダとかは適当に取って食べてくれ。ほい、これ皿と箸な。割り箸で悪いが我慢してくれ」

「いや、あの、迷惑をかけたく無いので、食事は大丈夫です……」

「え、じゃあご飯どうしてんの?」

「私は座敷わらしですから、妖力さえあれば生きていけますし」

「妖力?」

「人間は皆、少なからず妖力を発しているのです。それが私たちに取っての栄養なので、あなたがここに住んでくれている限り、何も問題ありません」

「ふーん、そういうもんなのか」

「そういうもんなんです」


 俺は席につき、挨拶をして食べ始める。うむ、やはりあのスーパーの惣菜は美味い。


 俺が無言で箸を動かしていると、座敷わらしの目が一箇所に固定されていることに気付いた。


 視線の先を追ってみると……そこには小豆飯おにぎりがあった。俺はすかさず、小豆飯おにぎりを容器ごと座敷わらしの方へ差し出した。


「ほれ、食いたいなら食え」

「え、いや、ご迷惑はおかけしたく無いので……」

「ずっと物欲しそうに見てたろ? やるよ。それに、二人でいるのに一人だけ食べてるなんて寂しいだろ? 俺が寂しく無いように、一緒に食べてくれるか?」

「……はいっ!」


 座敷わらしは、本当に嬉しそうな表情を浮かべて笑って見せた。心なしか涙目なのは気のせいだろうか。


「いただきます!」

「おう、箸はこれな」


 口にした鶏飯は、さっきより美味しいような気がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ