私は生まれながらに呪われている。
私は生まれながらに呪われている。
私の両親は有名人。
父は若手の頃から好成績を残し、現在は監督も勤めるプロのスポーツ選手。
母はその美貌と演技力を武器に、数々の賞を総なめにしてきた女優。
そんなふたりが大恋愛の末に結婚、私が生まれたときは、かなり注目を集めたらしかった。
けれど家では、優しい母と、頼もしい父でしかなかった。たまになん日も家を空けたり、テレビに出ていることもあったが、私にとってはそれが普通だった。
それが普通ではないことに気付くのは、小学校に上がってからになる。
入学式、両親は揃ってスケジュールを調整して参列した。
顔が知られている両親に、他の父兄が気付いたようだ。私の苗字は特に珍しくもなかったが、学年にひとりだけだったので、すぐに「あの大物夫婦のひとり娘」と保護者たちの知るところとなった。
それから、子供の方にも広まることになる。
「お前のお父さん、あの監督なんだろ? じゃあ大金持ちなんだろ?」
「ねぇ、お母さんが女優さんなら、あの俳優のサインもらって来てよ」
ある日、同級生たちがそんな風に言い出して、私は固まってしまった。
答えられない私がオロオロしていると、同級生たちはつまらないものを見るような目で私を見た。
結局、近くの先生がその場を治めたが、私の親の話は、度々揶揄されるようになる。
教科書の音読で噛むと、「お母さんは噛んだりしないのに」
体育のリレーで負けると、「お父さんは足が早いのに」
テストで赤点を取ると、「金かけて勉強すればいいのに」
多数決で少数派になると、「親が普通じゃないからズレてる」
上手く笑えないと、「本当にあの親の子供?」
思い知らされる。
表現力が優れていなければ。運動神経が良くなければ。勉強ができなければ。常識の範囲に留まらなければ。綺麗な顔でいなければ。才能がなければ。
思い知らされる。両親に似ていなければ、 私は何者にもなれないのだということを。
皆、期待外れという顔をする。
そんなことはわかっている。
最初は応えようと努力した。親に近付こうと。親と比べられても誇れるほどに成長しようと。
けれど、親の背中ほど大きいものは、私の人生には、ない。
なにひとつ不自由なく育てられていると周囲は言う。
真面目で頑健な父親。美しく聡明な母親。広くて清潔な家に、たくさんの本や漫画。パソコンもゲームも最新の物が揃っていて、着る物も食べ物も困ったことがない。欲しい物も行きたい場所も、両親は時間を作って叶えてくれた。
だから世間からすれば、その通りなのだろう。
それでも私は思うのだ。
なにひとつ自由にならないの間違いではないのか、と。
私は生まれながらに呪われている。
ずっと、越えられない壁を、望みもしないのに目の前に突きつけられている。
他でもない、唯一無二の才能を持ち、人々を魅了し、躍進を続け、誰よりも愛してくれる両親によって。
2021/02/24
我が家は普通です、世界一可愛い息子と、天然な母上に奇想天外な弟がおります。