この世とあの世の はざかいの 星の流れが集う場所
詩を愛する黒猫虎様に捧げますの。ボロローン。
はるか異なる世界の物語。
月の満ち引き星の流れに繋がりし
そこな国の海老がひとつぶ涙する
偕老同穴に潜り込み
雄の海老と出逢いし海老の幼体
ひと目見るなりときめいて身体
雌と変えしその姿 必ず二匹の
愛の巣に もう一匹がスルリと
のこのこ入りこみあろう事か雌となる
ああ……哀れな海老よ
愛しき雄な海老は 後に入りし海老と
契を交わしいつも寄り添い睦み合う
彼女の入るスキはない
ああ……悲劇の海老よ
鬱鬱として沈みし底で思い出す
かつて生きてたときの世を
身分ある姫としての最後の時に
願いし想いがチリチリと燻り蘇る
腰をくに折り痛みに耐える
神はどうして試練をお与えになる
憎々しいはこの世の恋仲 恋仲
先の時もこうだった こうだった
裏切りはその御霊を選んで地に落とす
出ていけそなたの顔など見とうない
王子の側には笑って金茶の女が侍ってる
そう言われし乙女な先の時
乙女は着の身着のまま捨てられた
乙女は茨とイラクサに覆われし
荒野を血を流し傷負い彷徨い歩く
倒れ伏し目を閉じた
冷たき風がカラカラと
獣に食い散らかされた
乙女の為に挽歌を謳う
時終え放たれし御霊ゆらゆら空逝く
ああ……哀れな乙女よ 慈悲の手が
差し出されし この世とあの世の
はざかいの 星の流れが集う場所
転生転移を司る 創られし存在が力を貸した
善人であった人の世で
罪科を着せらた 乙女の生
後の世があるならば人に等産まれとうない
願いは聴き入れられ 海老なる生を受けた
生まれ変わりし時 愛の巣のお邪魔モノ
暗くズブズブ沈む闇色満ちた心の中
海老はふたつの拗れた想いを懐きつつ
朽ちて再び 天使に救われ空へと向かう
乙女で海老は神に訥々と語る
この焼ける胸の内をはらしたい
そもそも恨みがあるから幸せになれぬ
事の起こりのあの猫を
全てを奪い取った金茶の髪の雌猫を
あの茨とイラクサの荒野へ追い出したい
退屈していた神は乙女なる海老の願いを聞き入れた
次こそは幸せになれと生きし時の記憶を残す
転生は成された、神の気まぐれにより
退屈していた神は逆行転生させてみた
人に時に戻り産まれし乙女は健やかに育つ
花の顔煌めく才知 優雅な肢体
令嬢達に 妬まれし神から授かりしその幸運
とり澄ました笑顔で乙女は扇の下から指し示す
この世の全てを知っていた 海老の全ても知っていた
善人面などもう結構 表向きだけ繕えば
己の欲しいものは奪うだけ
誰がこの先何をするかも知っている
知ってる乙女は 網を編み張り巡らせるは
策略 陰謀 先の手を打つのはお手の物
人の心は乙女の手のなか内の中
ああ……麗しの乙女よ
薔薇には棘がある様に
優しき笑顔の下に隠すは
星の光宿した鋭き切っ先
月の静謐なる真白の冷徹
彼女は高みを目指し銀の櫓を漕ぐ
粛々と進みし 黄金と白の王宮へ
敢えて同じ道を征く
行儀見習い王太子妃教育が始まる場へと
そこで出逢うは金茶の髪した雌猫
乙女に近づき媚を売る
敢えて泳がせ好きにさせておく
絹の手袋 締めた細い腰元真紅の衣装
髪には真珠を散りばめて たわわな胸元
大きく広げたひだ飾り 首には金剛石に翠玉
ああ……芳しき乙女よ
たちまち宮廷人の心を射る
無垢を装う青空の色した瞳
薄紅色の頬はふくよかで肌白く
金の髪 歌う声はナイチンゲール
手に手を取り 踊る大理石の大広間
相手は産まれ落ちてからの婚約者
王子と共にくるくる舞う
先先の時は知らぬが今は知る
金茶の髪の雌猫が
したりと乙女を眺めてるのを
ああ……したたかなる乙女よ
目の前の移り気な王子にお前は要らぬと
恥をかかされる時はすぐ側に来ている
金茶の猫の言葉にのせられ罪科着せられ
弁明の場すら与えられず 着の身着のまま
過酷な地へと 家名と一族の為に自ら赴け
実の両親に告げられ棄てられた
誰も偽りであろうが罪人に手は貸さぬ
ああ……憎々しいは乙女を取り囲むすべての者達
曲の終わりが新たなる時の始まり
同じ相手とは続けて踊る事は出来ぬ宮廷儀礼
次に雌猫が王子と踊り誑かすのを知っている
ならばわたくしはあのお方を捕えましょう
その手を手を取ることに心は揺らがない
かつてはいけぬと突っぱねた 相手の手を
取ることをむしろ嬉々として受け入れる
王妃喪いし王が乙女を狙っている
ナイチンゲールを捕らえんと
息子の嫁となりし彼女に岡惚れす
二人出逢うは舞踏会
乙女は王の手を取った
甘く囁やき笑顔を向ける
これより違う物語 始まりし夜
この世とあの世のはざかいの
星の流れが集う場所
神はほくそ笑み乙女の行き先眺めてる
これはなろうな世界の物語。