転生②
赤ちゃんになってから数日が経過した。
母親らしい女性がわたしを抱き上げながら会話している中から拾い上げた言葉を整理すると、わたしの名前は「エルミリー・コレット」で「アンリ」という双子の姉がいること。
それから世界はわたしのいた世界とは別の世界らしく、科学はあまり発展しておらず魔法が存在するらしいことくらいだ。
なんにせよまずはこのうまく動かせない身体を動かせるようになって本などから知識を得ることが先決だろう。
なにせわたしはこの世界のことを何も知らない。
まずは指、それから立てるようになることを最初の目標に定めてわたしの異世界生活が始まった。
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転生してから数日が経過しました。
私の名前は「アンリ・コレット」といい、「エルミリー」という双子の妹がいるようです。
わかったことは私が死んでから五百年近くたっているという事、魔法に関して研究がかなり進んでいること、文明が進歩していて生前は見なかった物も多くあること、家具や調度品の質がいいからここは貴族、もしくは豪商の家らしいということくらいです。
わかっていたことですが生まれたばかりのこの身体では情報収集が難しいので身体を動かす訓練をしながら家族に聞いてみることにしましょうか。
前世のこともありますしあまり人を信用したくないのですが両親は信用できそうですしね。
目標があればやる気が自然と出てくるのが私の良いところだと前世の両親にも言われましたっけ。
さぁ、頑張りましょうか。
――――――――――――――――――3年後。
街で一番大きな屋敷の一室の大きな執務机を埋め尽くすほどの書類の前で男が大きく伸びをしてペンを置いた。
すかさず差し出された紅茶を一口飲み、男は隣に控える執事に話しかける。
「よし、今日の分の執務は終了だろう? セス」
「はい、レクス様。明日の準備や資料の整理は私たちで行いますのでレクス様はお休みください」
「あぁ、助かる。お前たちが居なければ私は娘たちと触れ合う時間が十分とれなかっただろう」
「もったいなきお言葉。私たちはこの家に仕えることが何よりの喜びなのです」
「そう言ってもらえて嬉しい限りだ。一通り済ませたら今日は終わりで構わない。私は娘たちに会ってくる」
「かしこまりました」
レクスと呼ばれた男は紅茶を飲み干すと足早に部屋を出ていく。その足取りは軽く、我が子に会うのが楽しみで仕方ないのがよくわかった。
だがそんなレクスを待っていたのは思いもよらない一言だった。
「お嬢様たちなら書庫にこもっておられますよ?」
「えっ?」
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3年の月日が経つうちにわたしたちは既に一人で動けるようになり、書庫の中をうろついて様々な本を読破していった。その数、半年で百冊。
だがそのことを知るのはわたしたちだけであり、使用人や両親が見ている中では絵本か童話しか読んでいない。
(さーて、次は何を読もうかな。魔法は心を惹かれるけど父さんや母さんと一緒にやらないと失敗した時が怖いし我慢我慢。あ、コレ面白そう!)
わたしが本を探して歩いていると、同じく本を探しているのかアンリが歩いているのが見えた。
(アンリもここに来てたんだ。それにしてもアンリは隠そうとしてるみたいだけどアンリも相当頭がいいよね。三歳でいくつかの言語を覚えているようだし言動も子供っぽくないし……ひょっとしてアンリも、かな?)
転生者で記憶があるならお互い協力した方が情報は早く集まる、そう考えた私は自分が転生者であることをアンリに明かすことにした。
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みんながまだ寝ている日の出前、私は日中読めない本を読みに書庫に来ました。
前世のように裏切られたくはないのでみんなが信頼できると思うまでは前世の記憶があることや、それを悟られるような行動は見せられません。
なのでみんなが起きる前に少しずつ調べていくほかありませんね。
(さて、昨日は魔法でしたし今日は歴史について調べてみましょうか。エルちゃんは……まだ決めていないようですね)
(エルちゃんと言えば彼女は何者なんでしょう。文字が上手く読めない割には読めるようになるまでが早すぎますし……私と同じ転生者なのは確かなようですし警戒しないといけませんね)
前世の最期の影響で人をあまり信用したくない私は周りの人を警戒し、両親とエルちゃん以外とはあまり会話をせず、三人の前でも難しい本を読むことをしないようにして「少しだけ成長が早い子供」を演じています。
エルちゃんもあまり難しい本を読まないようにして、読むときは斜め読みにして文字が読めることを隠しているようですがそろそろ私もそうしましょう。
もう文字が読める歳にはなっているはず……ですし。
そう決意した日の夕刻、エルちゃんが真剣な顔で声をかけてきた。
「ねぇ、お姉ちゃん。転生って実際にあると思う?」
視点がコロコロ変わっていますが次からはほぼエル視点になります。
なので読みやすくなるのではないかと。