転生①
途中で全ての「私」にルビが振ってあるのはワザとで、本文中で一人称はアンリが私、栞がわたしになっているからです。
何回もルビ振らなくてもいいよみたいなコメが来ないよう先に言っておきます。
私、「アンリ=ルーン」はただいま人生最大のピンチを迎えています。
学園の長期休みのため帰宅途中に剣を持った集団に襲われているんです。
「カミュ様、いったいこれはどういうことなのでしょうか?」
その中に友人のメアリー様の従者であるカミュ様がいたので問い詰めてみると意外な返答が返ってきました。
「あなたが居なくなればお嬢様は学園で一番になれる。あなたという存在がお嬢様に与えられるはずだった地位を奪っている!! だからあなたには消えてもらいましょうか!!」
確かに私は試験の成績でメアリーに僅差で勝って学年一位でした。
でも……あの方がそんなことをするはずがない。メアリー様は努力を怠らず、自身の力で勝利したいと望む真っ直ぐな方だ。
「このような勝利をメアリー様が望んでいるとは思えません。それはあなたの方がよくご存じではないでしょうか」
「は、ははは、あはははははははは!!」
その言葉を聞いたカミュ様は腹を抱えて大きな声で笑い始めました。
しばらくして収まったのか顔をあげるとそこには見たことがない邪悪な笑みが浮かんでいます。
「お嬢様が望んでいるからこそ私や、シルヴレン家所属騎士がここにいるんですよ。そうでしょう、お嬢様?」
「……ぇ?」
集団の中で唯一フードで顔を隠していた人がフードを脱ぐと長く煌めく金髪と碧い眼、そこにいたのは間違いなくメアリー様でした。
けれどそこにいつもの優しそうな微笑みはなく、代わりに見ているだけで刺されそうな冷たく目に私は身震いしました。
「カミュ様、メアリー様に何をしたんですか!? 普段のメアリー様ならこのような表情は絶対にしません!!」
「アハハ、何を言ってるのアンリ? これが私よ。あなたに近づいたのは全てこの時のため。私より能力の高い女子生徒をこっそり始末するためよ。演技にすっかり騙されたようね、とっても滑稽だわ!!」
絶望に打ちひしがれた私は泣きながらへたり込んだ。
止まらない涙でぼやける視界の中最後に見えたのは私が斬られる瞬間を間近で見ようとニコニコしているメアリー様の笑顔だった。
最後の瞬間に痛みを感じなかったことが今の私にとって何よりの救いだった。
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「あ~今回も面白かった!!」
本の山の上にまた一冊積み上げる。
わたし、「五行 栞」は現在高校生になってから初めての夏休みの真っただ中。
バイトで稼いでいたお金で大人買いした四十冊以上の本を読んでは積み読んでは積みを繰り返している。
普段なら読んだらすぐに感想を書くのだが学校があるうちの我慢していた分(我慢できていない)を取り戻すかのように寝食を忘れて読み続けてもう三日目だ。
「さすがに眠いしこれを読んだら終わりにしようっと。あれ、なんだか身体が重、い……」
新しい本に手を伸ばそうとした時、視界がぼやけていき、わたしは意識を失った。
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目を覚ました私が見たのは見知らぬ天井。
私は思わず声を上げた、いや上げようとした。
けれど出たのは「あー」や「うー」などの単語ですらない音だった。
『あ~あ~!?(ナニコレ!? どうなってるの!?)』
その音は同時に隣からも聞こえており隣に同じような存在がいることがわかった。
叫び声で私たちに気付いたのか複数の足音が聞こえてきた。
足音は真っ直ぐこちらに近づくと私を軽々と持ち上げた。
そしてのぞき込んでくるのは私を愛おしそうに見ている女性で、つまりこれは……
『あ~!?(私赤ちゃんになってる!?)」