コンテニュー1
「よく来たな、我が息子よ」
「───なっ!?」
そこには扉を開けた時に見た魔王の姿があった。
理解が落ち着かないほどに驚くべき事だが、これは現実だ。現実であるが故に驚いている。
「何をした!」
「何をしたかはお前も知っているだろう。お前の母を殺し、世界を恐怖で支配したのだ」
あぁ、そうか。
きっと魔王を倒したい気持ちが現実と夢の境界線を越えてしまったのだ。
ならばやるべきことは同じ。
そして俺はもう一度同じ手順で魔王を殺した。
「よく来たな、我が息子よ」
「───なっ!?」
三度目。
驚きはしたがすぐさま平静を取り戻して魔王を倒す。
「よく来たな、我が息子よ」
「───なっ!?」
四度目。
こうなるのではと薄々思っていたが、それでも現実に起きると驚いてしまうんだな。
「ハアアアアッ!」
同じように魔王を倒す。
そして俺はあの時の戦いと寸分違わないということに気付いた。
攻撃方法や場所。もう俺は仲間の支援が無くとも魔王の攻撃を避けられるようになりつつあった。
「よく来たな、我が息子よ」
「───はぁ、」
五度目。
変化が欲しかった。何か変化が。
それにしてもこのループ現象は俺だけなのか気になった。
「なぁお前ら。この戦いが一度目か?」
「「「え?」」」
三人の表情が曇る。
何も知らないといった表情だ。
「ハッ!」
だが変化はあった。
三人の意識に一瞬の空白が生まれた。その隙を魔王は見逃さずに攻撃してくる。
攻撃手段は同じだが、それでも変化が生まれたことに俺は興奮した。
「よく来たな、我が息子よ」
「───。」
結局、変化はあれだけ。
そしてまた戻ってきた。
あの時の興奮はそっくりそのまま、今の自己嫌悪となった。
魔王を倒して世界を救う立場の俺が、自分の気持ちを満たすために仲間に一瞬の隙という危険を背負わせた。
それで興奮? 明らかに俺の精神は摩耗していた。
「なぁ、俺らは…………いや、なんでもない」
これは魔王の幻術か罠かもしれない。
いつか仲間が助けてくれるかもしれない。
こうして何度も魔王を倒していれば、魔王を本当の意味で倒せるかもしれない。
「よく来たな、我が息子よ」
「───ナッ!?」
わざとらしい驚き方だが、仕方ない。なるべく同じように倒そうと決めた以上、どれだけ気持ちが白けていてもやらなくてはいけない。
「よく来たな、我が息子よ」
「───なっ!?」
演技も上手くなってきた。
「よく来たな、我が息子よ」
「───なっ!?」
これでいい。
「よく来たな、我が息子よ」
「───なっ!?」
これでいいんだ。
「よく来たな、我が息子よ」
「───なっ!?」
これで…………。
「よく来たな、我が息子よ」
「────────────なっ!?」
眠たくないのに目を閉じてしまいたい。
限界が近い。
「よく来たな、我が息子よ」
「───────────────。」
反応が遅い。
どこをみているのか分からないほど虚ろだ。
それでも倒せる。
この程度の敵に世界は…………。
「よく来たな、我が息子よ」
「───そうだね、父さん」
もうどうでもいいか。