八話 シーカストの街
「身分証がないなら、銀貨5枚だな。そのまま身分証を作るか?」
「はい。お願いします」
ナターシャの助言のおかげで異世界でも生きていけそうな目処が立ち、その後、俺達は街へと向かった。
あの草原から徒歩2時間くらい歩いて、このシーカストの街に到着した。
「ほれ、また失くしたら大変だからな」
「ありがとうございます」
人の好さそうな門番のおっちゃんが、すぐに出来た身分証を渡してくれる。
身分証がない人は通行料で銀貨5枚(500円)払うけど、初めて身分証を希望する人にはその銀貨5枚で作ってもくれるみたいだ。
身分証の作り方は、水晶みたいなものに血を一滴垂らすと一瞬光を放ち、次の瞬間には身分証のカードが水晶からにゅっと出てきた。
「名前も書かなかったけど、よかったのか?」
「万物は血に宿りますから」
「ふーん?」
俺からみたら悪党どもに悪用されないのかと冷や冷やしたが、あの水晶は血を垂らすと善人と犯罪者、犯罪に巻き込まれそうな者をその場で見分ける事が出来るそうだ。
身分証には、ステータス程ではないが、名前や年齢などの簡単なことも表記されるらしい。
「まずは私の父の店へ行きましょう」
「うん」
この街に向かいながら決めた事。
まずは、さっきから街行く人にジロジロ見られて居た堪れない事になっている俺の服を揃えたい。
「ここです」
「おっきいね」
門から30分ほど歩いて着いたナターシャの実家の商店は、なかなか立派な造りをしていた。
この街の建造物は、基本的に煉瓦造のようだ。その中でもこの商店は白煉瓦で造られ、清潔感のある佇まいだった。
しかし、街まで来たが異世界に紛れこんだというより、海外に来たみたいだな。
この辺りの建物は個人の所有物だからか、建物自体や出入り口付近の掃除はされているが、路上は舗装がされていないし、土がむき出しだ。雨とか降ったら泥濘がやばそう。
「おや? ナターシャ、帰ったのかい」
「お父さん!」
タイミングよく店先から出て来たのは、ナターシャの父親だった。
「今日は随分早かったんだな。どうせまたあの森に行っていたんだろうが、怪我はなかったか?」
「え、あ……うん。怪我はなかったんだけど」
ちら、と躊躇い気味にこちらを向いたナターシャ。
ーー安心してくれ。ニートでも自己紹介くらいは出来るから大丈夫だぞ。
この地で商売を始めるなら、多少の人脈も必要だろうしな。
「はじめまして、長谷川 健太と申します。ナターシャさんとは、先程僕が道に迷っていたところを助けていただいて、縁あってこちらのお店に寄らせていただきました。見てのとおり、私の身なりがこんな感じなので……服を購入させていただければと」
「おぉ、そうでしたか! 私はナターシャの父、アルベルトと申します。どうぞよしなに」
「あの、お父さん違うの。どちらかというと私がケンタ様に助けてもらったの。それで少しでも恩返しがしたくて」
いやいや、俺が。いやいやいや、私の方が。
譲り合う俺たちの押し問答を苦笑して見ていたアルベルトさんが、「詳しい話は中で聞きましょう」と言ってくれたので、俺たちは揃ってアルベルト商会に入っていった。