四話 おでん缶
「はふはふっ、な、なんでふかっ!これは!」
「ナターシャ、喋るか食うかどっちかにしような」
「ふいまふぇん」
はぐはぐと中身は思ったより熱かったおでん缶を、一心不乱に食べているナターシャ。
いくつも散らばっていた缶の中からおでん缶を選んだのはある理由からである。
俺も食べるのは初めてだったが、パッケージのおでん写真のこんにゃくに爪楊枝が刺さっていたからだ。
カトラリーを持っていない現状での選択肢は、これ一択だった。
もし写真詐欺で爪楊枝がなかったら、俺たちは熱いおでんに指を突っ込む羽目になっただろう。
「えーっと。じゃあそろそろ、この国の話を聞いてもいいか?」
「ハッ……私とした事が!」
結局、食べ終わった後に改めて話を聞く体制に入った。
食べながら話を聞くつもりだったのだが、ナターシャがおでん缶に興奮し過ぎて、俺からの質問は悉く無視されてしまっていたからだ。
「この国はですね……」
ナターシャに話を聞いていくと、この国はウィンネステン王国の辺境で、ここから一番近い街がナターシャの生まれ育ったシーカスト辺境伯が治める街だそうだ。
シーカストの街は田舎でもないがとびきり栄えているわけでもなく、ごく平均的な普通の街らしい。
お金の単位は、銭貨・銅貨・銀貨・大銀貨・金貨・大金貨・白金貨・大白金貨・金剛貨という順番だ。
物価の目安を聞いた所、平民4人家族の平均月収は大金貨2枚。
パンが主食で銀貨一枚で買えるものがほとんど。
家賃の相場は土地や建物にもよるが、金貨5〜8枚程度が一般的だそうだ。
白金貨以上になると、庶民はそうそうお目に掛かる機会はないらしく、ナターシャは白金貨を数回見たことはあるがそれ以上はよくわからないと言っていた。
……ふむ。話を聞く限り、家賃が高めだとか殆どの世帯が共働きらしいのに賃金が低めだなとか思う所はあるが、物価はそれほど変わるわけではなさそうだな。つまり日本円にすると、
銭貨一枚 1円
銅貨一枚 10円
銀貨一枚 100円
大銀貨一枚 1000円
金貨一枚 1万円
大金貨一枚 10万円
白金貨一枚 100万円
大白金貨一枚 1000万円
金剛貨一枚 1億円
と言った感じだろうか?
「では、街にご案内致しますか?」
「あ、待って。もしかして街に入るのにお金って必要か?」
「そうですね。もし証明書をお持ちでなければ、門番に申請の上、身分証を発行していただく事になりますね。料金はこのホーンラビットを売れば十分にお釣りが返ってきますので、私が先に立て替えておくという事でよろしいですか?」
「ああ、悪いが頼むな」
「本来なら、私が当面の生活費をお出しさせていただきたいのですが……」
「いや、それは男の沽券にかかわる」
幼女に金を支払わせるとか、どんな鬼畜野郎だそれは。
立て替えをしてもらうだけでも心が痛むのに、なんで俺は一文無しでこんな場所に来てしまったんだろうか。いや、正確には財布はあったから一文無しではないんだが。
「使えなきゃ意味ないし……って、ん?」
いつもより重量を感じる財布に違和感を覚える。
まさかな、と思って小銭入れを覗いてみると、見慣れた100円玉よりも一回り大きくて、キラキラ輝きを放つ硬貨が俺の眼前にあった。