三話 俺が外国人だった
「ケンタ様の武器が沢山落ちていましたよ」
「え」
解体を終え、ボロボロのタオルを皮製の袋に入っていた水で湿らせ、血塗れの手を拭いていたナターシャが何かを拾ってきた。
「缶詰? 俺の?」
はい、と手渡されたから受け取ってみると、両手のひらにはいくつもの缶詰があった。……いや別に、俺のじゃないよね?
「ケンタ様は先程、ホーンラビットに、その、缶詰め、ですか? それをいくつも投げられていたではありませんか」
ナターシャがきょとん、としているが、俺だってきょとん、だ。
手品師でもタネがあるだろうに、財布しか持ってない俺が缶詰なんか出せるわけないだろう。
「ステータススキルにも書かれていないのですか?」
「は?」
きょとん、再び。
ナターシャは生粋の日本ヲタではなかったのか。
ゲームやラノベも愛する万能型だったのか。まだ幼女なのに、濃ゆい両親かお友達がいるんだろうか。
「ケンタ様は迷子だとおっしゃっていましたが……その、記憶も一部なくされているのでは? そもそも、この辺境までどこの誰とどうやって来られたのです?」
「…………いや、」
記憶喪失だという事には否定できるが、誰にどうやってここに連れられて来たのかはわからない。
悪友たちの悪ふざけだと思っていたが、あいつらだって仕事や家庭がある奴ばかりだ。
考えない様にしていたが、ホーンラビットなんて名前はどう考えても熊じゃなくてうさぎだろうし、仮に地球に存在していたとして、サファリパークにでも行かない限り出会うはずもない。
あいつらがそんな所まで、たった一日で何十時間掛かるんだという場所に連れて来れる訳がなかったのだ。
なら、俺はどうしてこんな場所にいるんだ……?
「ケンタ様?」
心配そうに見上げてくるナターシャ。
正直、何が何だかわからないし受け入れなきゃいけない事実にゾクリと悪寒がする。
でも、こんな小さな女の子に心配させちゃいけない事だけは今の俺にでもわかった。
「自覚はあまりないんだけど、どうやらそうみたいだ。 ナターシャ、悪いがこの国の事とか色々教えてくれるか?」
「は、はい。 もちろんですっ」
「腹も減ったから、缶詰でも食べながら話そう」
ナターシャが拾ってくれた、何故か温かい缶詰のひとつを差し出して、そう言った。