二話 君はだれだ
「はあ、はあっ、ありが……ましたっ!」
「お、おう。とりあえず落ち着いて」
今、目の前にいるのは汗だくの美少女。
その背後には白いもふもふ……いや、先程死闘を繰り広げたせいで赤色も混じったうさぎもどきの塊がいた。
自分でも何を言っているのか訳がわからないが、牙とか角とか生えてるから、これはうさぎではない。新種の熊かなにかだ。
「あの、君は?」
ちらりと彼女を観察してみる。
肩で切り揃えられたシルバーグレーの髪に、透き通るような白い肌。つり目気味だが、色彩の薄い緑で涼しげで……。150㎝もなさそうな超ちびっ子だな。
明らかに日本人じゃない顔立ちだけど、どこまで日本語は通じるんだろうか。
「はぅ、申し遅れました! 私はナターシャです。 ここから一番近い街の服屋の店主の跡取り娘でございます!」
めちゃくちゃ通じた。
いや、良く考えたらさっきも喋ってたか。もちつけ俺。
「そうですか。俺は長谷川健太です。ケンタと呼んで下さい」
「ははっ!」
「いや、そんな畏まられても……」
今にも土下座しそうな勢いだな。
「いえいえいえ!ケンタ様は私の命の恩人に御座いますれば、どれだけ礼儀を尽くしても返しきれない大恩がございますので、なんなりとお申し付け下さい!」
侍か。ハラキリ大好きな外国人か。
よく見たらなんか変な格好だし、忍者にでも憧れがあるんだろうな。よれよれTシャツに毛玉付きスウェットの俺に言われたくないかもだけど。
「うーん。 じゃあさ、君の街まで俺を連れていってくれないかな? 恥ずかしい話なんだけど、迷子になったみたいで。ここがどこだか全くわからないんだ」
そもそもここは何県なんだろう。まさか、県境を越えてしまっているのか?
「なんとっ、そうでしたか! ええ、もちろん私の街まで案内させていただきます」
「ああ、うん。宜しく頼むよ」
かくして俺は、彼女について街まで連れて行って貰う事になった。
「その前に、ケンタ様のこのホーンラビットの処理をしますので、少々お待ち下さい!」
彼女によると、森での採集中にこのホーンラビットという外来種(?)の熊の親玉が襲い掛かってきたそうだ。
いつもはもっと小さなホーンラビットが稀に襲ってくることはあっても、親玉に出会う事はまず無かったため油断してしまったと悔いていた。
ホーンラビットは高値で売買可能らしく、放置して街に行こうとしてた俺を、申し訳なさそうにナターシャが引き留めてきたのだ。
……しかしまあ、俺とこのちびっ子で良く倒せたよな、こんなデカイの。
手当たり次第石かなんか投げた様な気がするけど、死にたくなくて無我夢中だったから戦闘中の事はよく覚えていない。
「もうすぐ終わりますので!」
「……はいよ」
目の前で、手持ちのナイフで器用にホーンラビットの腹を掻っ捌き、血抜きや解体を行うスプラッタな幼女からそっと目を逸らしつつ、時間が過ぎるのを待つ俺だった。