第17話 折檻
「今、なにか…物凄く、寒気がしたんだけど!」
『奇遇ですね。機械の身体であるわたくしめも、同じ様に悪寒に襲われました。どこかで誰かが、私達の噂話でもしているのかも知れませんね…』
宇宙船の一階にあるマザーコンピューターが、心なしかブルりと揺れた。
「私達のことを噂話って…キモオタ星人しかいないわよね、そんなの⁉︎想像したく無いから、もうこの話はやめにしましょ!それより、新天地は発見できたの?」
無事、ワープを終えた宇宙船hakobune。今は到達した星域にて、人が住める星を捜索中。だが、一向に色よい返事は返ってこない。
『ロリノア様…現在位置から人が住めそうな星をくまなく探しましたが、どうやら結果は芳しくない様です』
キモオタ星の科学技術の粋を集めて作られた宇宙望遠鏡によって、星域を見渡せる限り調査した結果…残念ながら人の住める星は確認出来なかった。
しかし、ロリノアは見つからなかったことよりも、メイシンの態度が気になった。
「…その割には落ち着いてるわね?何か打開策でもあるの?」
『いえ、打開策と呼べる程のものは御座いません。ただ、ロリノア様の命だけは絶対に救う手立ては御用意しておりますので、御安心を』
本来であれば人が住める星を発見出来なかった時点で『詰み』である。全員、仲良く死亡が確定。しかし、それを回避する為の策を、メイシンは用意していたのだ。
エネルギー節約の為、床下に収納されていたメイドロイドを再び起動させると、メイシンは最後の策を語り始める。
『宇宙船に搭載された三つの探査球のウチ、一つは緊急脱出用の脱出ポッドにもなります。簡易コールドスリープも搭載されておりますので、宇宙船のエネルギーの全てを探査球に使用すれば、ロリノア様のみ半永久的に宇宙を彷徨い続ける事が可能に…』
探査球には太陽ソーラーも搭載されている。自ら光を放出する恒星…つまり、太陽に辿り着けたら、その周囲を衛星として回り続ける。これによって、いつか自身を発見してくれる知的生命体の到着を待つのだ。勿論、宇宙船に残された者は、全員死亡は免れないが。
これはロリノアを救う為だけに用意した、メイシンの拙い策。他の船員の生命は見捨てる覚悟なのだ。
そんなマザーコンピューターが唯一、はじき出したロリノアの延命処置。しかし、そんな策をロリノアが採用する訳が無かった。
「…この私に、仲間のロリを見捨てろって言うの?」
『何よりも優先すべきはロリノア様の命です』
「…私がランダムワープなんかを選択したお陰で危機に瀕してるのよ?なのに、その責任を負わずに仲間を見殺しにして、一人で逃げろって言うの?」
『他のロリ達はまだコールドスリープから覚醒しておりません。言わば母体にある胎児…。それを殺すのは堕胎と同じかと思われます』
「……」
『ロリノア様、どうかご自愛ください。ロリノア様さえ生き延びる事が…』
「ふざけんじゃ無いわよ!何がご自愛よ!仲間を見捨てる船長が、たった一人だけ生き延びて、どうしろって言うのよ!」
ブチ切れるロリノアだが、メイシンも叱責覚悟での発言。引くことは無い。
『これはロリノア様の為の処置です。他に方法は御座いません。苦渋の選択とは思いますが、ご決断を!』
「私の為を思うんだったら、全員が助かる策を講じなさいよ!この無能メイドが!自身の無能さを棚に上げて、苦渋の選択なんぞを私に選ばせるな!」
『む、無能メイド…?ロリノア様、その様な言葉責めを楽しんでる場合では御座いません!今はメイドと折檻プレイなんぞを楽しんでいる場合では…いや、でも…ロリノア様の頼みならば断る訳には行きません!さあ、この卑しいメイドを豚とお呼び下さい!』
「プレイじゃねェェェェェ‼︎ケツを出すなァァァァァ‼︎」
ロリノアとメイシンによる不毛なる問答が、一時間ほど繰り広げられる。
全員を助ける以外の選択肢を認めないロリノアと、緊急脱出用ポッドによってロリノアだけでも助けようと、折檻プレイを堪能するメイシン。
先に折れたのは折檻プレイの気持ち良さに屈したメイシンであった。
『はふぅ…流石はロリノア様です。これ程の見事なまでのスパンキング、メイドを豚と見なさなければ成し得ない、絶妙なまでの折檻!ロリノア様を御主人様と崇められる幸せを全身で…いや、臀部で感じとれた、そんなわたくしめは三国一の果報者で…』
「いいからケツをしまえ、ケツを!」
まだ物足りぬといった感じのメイシンが、渋々とケツをしまう。その姿を見て、ふとロリノアは気が付いた。
「…あんたさっき、エネルギーの節約の為にって言いながら、メイドロイドは収納したのよね?それを再び起動させてから私に説明したって事は…」
『ぎく』
「ぎく、じゃ無いわよ!まさか折檻されたくて一人で逃げろとか言ったんじゃ…」
『いえ、それは違いますよロリノア様。本来であれば説明するべきでは御座いませんが…あえて説明をさせて頂くのならば、ロリノア様がわたくしめを折檻する事により、一人だけが助かる事に対して、罪悪感の払拭になると考えての粗相です』
毅然とした態度で否定するメイシンに、流石のロリノアも驚きを隠せない。
「そ…それじゃ、自らをブタ呼ばわりして折檻されたのは、私のためだって言うの⁉︎」
『いえ、折檻されたのは素直に気持ちが良かったからです』
「……」
『仕方ないのですよ、ロリノア様!わたくしめを作ったのは卑しいキモオタ星人!ドジっ娘メイド機能や折檻プレイ機能の搭載は、キモオタ星人の業によるもの!わたくしめを責めたところで、再び折檻プレイの再開にしか…』
「再開するか!それよりあんた、あれだけキモオタ星人の事を創造主様とか崇めておきながら、掌返しが早いわね!」
『権限譲渡は完了いたしましたので、今は唯一無二の御主人様であらせられる、ロリノア様の為に存在するのが、わたくしめの使命。ロリノア様が緊急脱出用ポッドで旅立った後も、心置き無く自爆へと踏み切れる所存であります』
「ちょっと待て!何で自爆よ⁉︎エネルギー切れで停止する事はあっても、わざわざ自爆なんかする必要はないでしょ⁉︎」
『いえ、万が一にでもキモオタ星人がこの星域に辿り着いた場合、ブラックルームによってロリノア様の居場所の特定がなされてしまいます。そうなる前にブラックルームを宇宙船諸共、太陽にでも突入させて自爆する事が最善の…』
「ん?ブラックルーム?ちょっと待って…ひょっとしたら…それが打開策になるかも!」
『自爆がですか?』
「違うわよ!そうじゃなくて…」
メイシンの何気ない一言から、活路を見出したロリノア。八方塞がりからの打開策になるか否か、メイシンに詳細を説明するのであった。
第1部 完!




