08 戦略ゲームは得意です
「レベル5、レベル4は難なくクリア。レベル3も平均的、と言ったところかしら」
『そうですね、あらゆる状況で迷わずすぐに指示が出せるのは高評価です』
僕は今、レミ艦隊の旗艦である巡洋艦の人工重力区画にいる。
ほら、映画の宇宙船でもたまに出てくるクルクル回る場所、あの中ね。
何を話しているのかと言うと、適性試験の結果。
艦隊指揮官としての適性を確認する試験を受けてみたんだけど、まあ平凡な結果に終わったよね。RTSとかやりこんではいたんだけど、流石に本職の軍人には勝てない。
「もっと勉強しなきゃかなー」
「必要ないと思うわよ? あなた以外AIだし、たいていの場合はAIに全て任せた方が効率的になるはずよ」
「いやでも、指揮官が状況よく分かってませんってのも、ね?」
『状況の把握に置いては平均よりかなり高いと思われます。
これはスコアに反映されない部分ではありますが、状況が動いてからの意思決定時間が非常に短く、平均を大きく上回っています。
また、とびぬけて優秀とは言えないものの間違った指示を出すこともありませんでした』
え、スコアに反映されないの? 一秒でも早く状況を動かした方が、有利に戦えると思うんだけど。
「少しでも早く判断して状況を動かした方がいいんじゃ? スコアに反映されないの?」
『艦隊戦では1秒の指示の遅れなら、指示の内容によって挽回することが可能と定義されています』
なるほど、指示が遅れても適切な指揮で挽回できるからノープロブレムと。
「これ、実は私が生まれる前の戦争の教訓らしいのよ。でも、そのころの船は動きが鈍重で性能も低かったから現代の艦隊戦でそれが通用するかは微妙なところね」
レミが補足してくれた。なるほど、レミが生まれる前となると少なくとも20年以上は前かな?
正直船の性能さがどうかはよく分からないけど、これが悪いという訳でもないみたい。
「でもよかったわ、このスコアならさして問題なく公開できるわね」
「公開?」
「あなたが私の艦隊指揮官になったこと、まだ公表してないのよ。通常なら試験をして、試験に合格した人が艦隊指揮官の適性試験を受けて、その中から総合的に判断されるのよ」
あ、なるほど。僕の場合レミの一存で艦隊指揮官になっちゃったから、これで適性試験結果が落第点だったら下手に公表できなくなる、という事かな。
レミも貴族なんだし、一応表面上はとりつくろわなければいけないんだろう。やっぱ貴族とかなりたくないねー。
「ちなみに、AI的にはどうなの? 丸投げがいいのか、ちゃんと指揮した方がいいのか」
『戦闘に勝利できれば、どちらでも。ただ、中途半端に引っ掻き回すのはやめて欲しいですが』
「それはそうだね。まあ、しばらくは任せて戦い方とか見て行くかな?」
まあ、ゲームのイメージで指揮して失敗しましたーなんてことになったら大変だし、しばらくはこの世界での戦い方や戦術などを見て行くとしよう。
「へぇ、自分で指揮したがる人が大半だけど、あなたは結構落ち着いているのね」
「いや、いきなり艦隊司令にされてまだ実戦経験ないんだよ? この世界の戦略や戦術も知らないし、船のスペックが思っているのと違う、とかだったら大変だし」
「そういう冷静な判断ができる人って、案外少ないものよ。それじゃ、今後の方向性も決まったことだし会議はこの辺で終わりにしましょうか」
これ会議だったのか。いつも通りレミ、僕、AIで話している感覚だったぞ。
いや、というかさ。
「全然会議っていう感じがしないんだけど。ここ僕の部屋だし」
「あら、べつにいいじゃないの。どうせ私たち以外誰もいないのよ? わざわざあんなだだっ広い会議室で二人でいるとむしろ寂しくならない?」
「まあ、それは分かる」
この巡洋艦、全長1キロほどあって、人工重力区画もそこそこ広い。
会議室は50人くらいは入れるような設計になっているとか。流石に50人も入れるとすし詰め状態になるけど、2人だけだと無駄に広くて、確かに寂しい感じにはなるよね。
「で、この後は到着時間まで自由って事でいいんだよね?」
「そうね、他にやることないし」
「じゃ、僕は自分の船見てくるよ」
「一緒に行っていいかしら? 私もあなたの船を把握しておきたいわね」
いや、把握しておきたいって言われても。
「仕様書は送ったと思うけど?」
「実物をまだ見てないのよ」
「実際に見て確かめたいって感じ?」
「そんな感じ」
まあ確かに、写真で見た印象と本物の印象がかなり違う、なんてことは日常でもよくあることだからね。
一度実物を見ておきたい、という気持ちはわかる。
「別に構わないよ、女の子にはちょっとつまらないかもしれないけどね」
「お、女の子? そんな言われ方、されたことないけれど」
「あー、僕からしてみれば貴族とかあんまり実感がわかないし、可愛い女の子として認識してるから。いやだったら言わないようにする」
「いや、その……嬉しい、わね。ちゃんと女の子として見てもらえるのなら」
……そんな反応されると、こっちも反応に困るじゃないか。
いや、何でちょっと頬を赤らめてるの? 僕の事好きかなとか思っちゃうよ?
まあ、大体予想はできてるんだけどね。貴族として生まれて、貴族としての教育を受けて、周りの人間も貴族として扱うからかわいい女の子なんて言われたことなかったんだろう。
かわいそう、なんて同情したら、よけい惨めにさせちゃうんだろうか。でも反応かわいいし……うん、あまやかすか。
レミの頭の上に手を置いて、ヾ(・ω・*)なでなで。
「んー、安心する……」
なんか気持ちよさそうに受け入れられた。ペットかな?
……それからしばらく撫で続けていたのは、ここだけの話である。
まだ未完成ー。