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ウラカタ卍サイクル  作者: 冷えピタ
第一章
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異世界から来た勇者(笑) #4

 その日は天気の良い日だった。


 お客様を迎えるためシャルアンがこだわり抜いたテーブルや椅子、食器等は輝かんばかりに磨かれ、床には塵一つない完璧な状態で掃除されていた。


 窓からこぼれる太陽光はその小さいながらも居心地のよさるを追及した店内を照らしている。


 素敵な昼下がりに食事を楽しむならまさに最高のシチュエーションなのだが…結局そこにまちびとが来ることは無かった。


 「暇なんだけど」


 「そうね」


 「「・・・」」


 俺がこの店で働くことになった翌日のお昼に早速お客様を迎えるために店内で待っていたのだが、引くくらい来ない。むしろ店の前に人が通りさえしない。


 最初に外からみたお店の様子から予想はしていたがいくらなんでも酷すぎた。


 「こんな状態でよく潰れないな…」


 隣に座るユーリに問いかけるが言ってることは失礼極まりない事である。


 だが俺はもうユーリにたいしては遠慮しないことにした。なぜならコイツは店内の掃除、整理整頓、開店準備等を全て押し付けたうえに現在はまだ営業時間にも関わらず菓子をつまみ本を読んでいるのだ。


 しかも掃除するふりをするためにバケツに水を汲んで持ってきたみたいなのだがとごかへ置きっぱなしにしてきやがったみたいだ。


 ちょっと可愛いからと言ってこんなめんどくさがりで人の話を聞かない女を敬う気なんてさらさら無い。


 「ん?まぁ…もともとお父さんの稼ぎで道楽のつもりで始めた事だから別に収入自体はそんないらないんだよね」


 店を出すだけでもその土地の権利や何やらで莫大なお金が必要なのに収入もいらず道楽扱いとわ…。


 「シャルアンさんって何物?」


 「さぁ?冒険者って聞いたことがあるけれどエルフの村に帰ってきた時にはもう止めていたみたいだし」


 冒険者…かそれだけ稼ぐってことはかなり高いランクだったみたいだな。


 「帰ってきたって…もともと一緒に住んでいたわけじゃないのか?」


 「・・・・」


 無視…か、まぁあまりひとさまの過去に土足で踏みいるのもダメだよな。


 「昼飯…食え…」


 俺が唸っているといつの間にか厨房から出てきていたシャルアンがユーリと俺の前に昼食を置く。


 昨日夕食をご馳走になった時も思ったが俺は外から見た店の印象や寡黙なヒス料理長、怠惰なウェイトレスのことなど全て忘れてなぜこんな旨い物がだせる店が繁盛していないんだと疑問を通り越して怒りさえは湧いた。


 それぐらいシャルアンの出す料理は素晴らしいものだった。


 今目の前に出された料理も香りだけで昇天してしまいそうな位甘美な物だった。


 「いいんですか?まだ営業時間ですが…」


 「どちらにせよ…客がいなければ意味はない。…食材を、無駄にするのも勿体無い…だから食え」


 俺はそのとぎれとぎれだがしっかり聞こえる美声を聞いたあとすぐに食事へと意識を集中させる。


 見た目は5㎝程の底がある平たい更に薄くスライスした鴨?のような見た目の肉が花の用に盛られていて透明なゼリーのブロックのようなものが振りかけられていた。


 前世ではあまり見たことのないビジュアルであったがその鴨肉(仮)は一目で外の皮はパリッと香ばしく焼かれなかはもっちり柔らかにと最高の状態で仕上げられていることが分かった。


 「いただきます」


 俺が手を合わせているとシャルアンもユーリも一様にキョトンした顔をしていたが、この料理を堪能するため無視だ。


 フォークで鴨肉(仮)を刺し口に運ぶ。


 じゅわぁ


 生前食べた差しの入った牛肉の様に口に入れた瞬間溶けて無くなるわけでは無かった。


 だが変わりにこの肉は噛めば噛むほどもっちりとした食感と共に野性的なガツンとした旨味そして繊細な脂の甘味が口いっぱいに広がる。


 ゴクンっ


 「・・・・」


 「そんな顔しなくてもまだまだ残ってるじゃない…」


 俺は相当悲しそうな顔をしていたようでユーリから呆れたような声をかけられる。


 だがそうだ、ユーリの言うとうり食事しあわせはまだ始まったばかりだ。


 次に気になっていたゼリー状の物体に目をつける。今度は先ほどの肉にゼリーを乗せるようにして口へと運ぶ。


 弾けた。何が?。旨味が。


 このゼリーは味からして鶏ガラや野菜等から抽出した旨味を使ったスープだった。


 ゼリースープは口に入れたとたん溶けだし肉の脂と絡みあって何とも犯罪的なハーモニーを醸し出していた。


 そして俺は食べ進むうちに肉の下に何かあることに気づく。


 「これは…米…なのか?」


 俺は思わず敬語も忘れてシャルアンに問いかける。


 彼はそんな俺の様子に珍しく苦笑を浮かべながら答える。


 「よく知っているな…確かにそれは極東の島国で米と呼ばれ食されている穀物だ」


 どうやら前の世界の日本と似たような食文化を持った国があるらしい、現にこの料理に使われている米はインディカ米等の細長い形をした品種では無く毎日の食卓に並ぶ見慣れた形状と風味だった。



 勿論日本で長い歳月と技術の結晶により品種改良された米には遠く及ばないかもしれない…だがそれでももしかしたらもう食べる事は出来ないかもと思っていた米を食せることに、それをもたらしてくれたシャルアンにただただ感謝していた。


 そんな様子にユーリは少し引いていたようだがその手は止まることなく彼女の口へと料理を運んでいたので俺をとやかくいう資格はないと思う。


 ユーリに気をとられているうち自分の料理に目を戻すととある変化に気がついた。


 ゼリースープが肉と、下から顔を出したサフランライスの熱により溶け初めていたのだ。


 とろけ流れるスープは肉にしたたりその脂と共に米へと流れて行き混ざりあう。


 調和


 正にそういうに相応しい。


 今はただ…黙って食するとしよう。


 この料理たからが冷めてしまう前に…。


 俺はテーブルに常備してあるスプーンを持ちその料理の真髄を味わうために手を動かす。




 瞬間、店のドアが勢いよく開け放たれた。そしてドアの付近にはユーリが置きっぱなしにしていた水がたっぷり入っているバケツがあった。


 それは様々な要因が重なったゆえの事故でもあった。…が結果的にこの件が彼、設楽碧のこの世界での生き方を決定付けるきっかけになったのだ。


 「いつも通り辛気くせぇ店だな邪魔だからさっさと潰しちまえよ」


 ドアが開け放たれたのと同時に現れたのは筋骨粒々の粗暴な感じの大男と、その後ろについてる嫌らしい笑みを浮かべた身なりの良い小太りの男だった。


 「僕が来てあげたってのに挨拶も無しかい?そんなんだから客も来ないんだ。わかったらさっさとユーリを奴隷として売れよ」


 小太りの男からかなりの爆弾発言が聞こえた気がするが当の侮辱された本人であるユーリとシャルアンは男を見もせずある一点を見つめていた。



 そこにはバケツの水を被りびしょ濡れとなって固まっていた碧がいた。


 そして彼がびしょ濡れという事は手元の料理たからも台無しになっているということだ。


 水が滴り今は亡き楽園りょうりへと手を伸ばしたまま動かない彼の顔は能面のように無表情だったという…。

御飯美味しそうに書けてたら嬉しいな(´ω`)

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