表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウラカタ卍サイクル  作者: 冷えピタ
第一章
7/54

異世界から来た勇者(笑) #2

 現状を確認しよう。


 目的、お金を稼ぐ。


 理由、この国を出て生活するため。


 こんなところかな、お金は王様から貰ったのがあるけれどそれは馬車や船などの交通費にほぼ消えてしまう程度の物だ。


 旅先で何があるか分からない以上資金は少し余裕を持って確保しておきたい。


 「って考えてたんだけど少し甘かったな…」


 短期間で雇って貰える仕事を探していたのだが、どこも身元の分からない怪しい人間を雇うことは出来ないと門前払いをくらった。


 正論だね。返す言葉も無い。


 一応身元不明でも仕事自体はあったのだが、どれも腕っぷしが必要だったり、怪しげな薬の実験台や窃盗などのアングラなものばかりだった。


 さすがに犯罪に手を出してまでお金を稼ごうとは思えず。他の案を考えていると、所謂冒険者ギルドというものを見つける。


 冒険者、それは数多の魔物と戦いながら自らの力を高め固い絆を結んだ仲間達と共に依頼をこなしたりダンジョンに挑み財宝を手にする。


 まさにロマン、男の夢、さらに身元等も関係なく己の実力だけで未来を切り開く事が出来る。


 俺はそんな勇ましい冒険者となった自分を夢想し、一歩を踏み出した。


 ギルドの前まで来た俺は冒険者人生の幕を開けるため扉に手を掛け…




 …る事もなく華麗にスルーする。


 いや、普通に考えてちょっと前までただの中年をやっていた俺に戦闘とか無理だから。怖いし。


 ステータスに剣術や格闘スキルがあるのは恐らく生前に友人の付き合いで剣道や柔道等の格闘技を嗜んでいたからだと思う。


 この世界のスキルという概念は以前やったことのあるRPGのポイントを割り振って身につけるタイプでは無く、剣術スキルならばしっかりとした師匠に教えを乞うことで習得しレベルを上げるにはさらなる習熟を必要とする。


 スキルがあれば自らの動きに補正が掛かるらしいので俺もその気になれば多少は戦えるのだろうが心のほうの準備が出来ていないのでお話にならない。


 そうしてあぁでもないこうでもないと考えてるうちにたどり着いたのが目の前の寂れた何かのお店だ。


 「従業員募集中って書いてあるけどここはそもそも何をするところなんだ?」


 俺は店先の張り紙とにらめっこしていると扉が急に開いた。


 開いた扉から出てきたのは日本では…というか生前の世界では見たことの無いレベルの長い耳を持った美少女だった。


 毛先が緑掛かった美しい金髪はお団子に纏められており白く透き通ったうなじの肌を晒している。そして何故か整った顔にある金色の瞳は警戒の色を帯び俺を見つめていた。


 「…君は誰?」


 ぶっきらぼうに問いかけられた俺は慌てて自己紹介をする。


 「も…申し遅れました!私は設楽碧といいます張り紙を見てここで働けないかと思いまして…」


 あ…勢いで言っちゃったけど、このお店給料払えるのかな?


 「え…この店で働きたいの?」


 失礼なことを考えていると驚いた顔で彼女は俺に問いかける。


 その言葉に若干の喜色が浮かんでいるのを感じ俺はちょっとだけ嫌な予感がしたので自らの勘を信じ立ち去ろうとする。


 「あ!やっぱり私みたいな怪しい奴は無理ですよね!じゃあこれにて失礼します」 


 早口でそう答えた俺はまだ17才位の幼い見た目とはいえ美少女との出会いをふいにしたことを少し残念に思いながら来た道を戻ろうと踵を返す。


 ガシッ


 だが俺の体はそこから一歩も動く事は無かった。


 恐る恐る振り替えると先程の美少女が俺の肩を掴みニッコリと微笑んでいた。


 「あの…帰りたいんですけど?」


 帰る場所も宿も無いのだが、冷や汗を流しながら少女に問いかける。


 「まぁまぁうちに働きに来てくれた人を門前払いなんてしないわよ」 


 微笑を浮かべた彼女の手の力がだんだん強くなっている気がする。


 …っていうか結構本気で抵抗してるのなのピクリとも動けないんだけど!?。


 「いえいえ自分で言うのもなんですがこんな身元の分からない不審者を雇うことないですって」


 「いやいや本当に悪人ならそんな事言わないと思うけど?」


 「いえいえ」


 「いやいや」


 「「・・・・」」


 


 結論から言うと俺はこのシャングリ・ラという寂れたお店…料理屋らしいここで働くことになった。


 「じゃあアオイ今日からよろしく頼むわ」


 先程の美少女、ユーリさんが声をかけてくる。


 「…こちらこそよろしくお願いいたします」


 「堅いわねぇ年相応の反応をした方がいいんじゃない?」


 「性分のですので」


 俺こと設楽碧はすっかり不機嫌になっていた。肩を引っ張られお店の中に引きずり込まれたあと試験だと言って店内の掃除をさせられた。


 納得は出来なかったが不満をいおうものならアイアンクローが飛んできたので黙った。


 いや本当にその細い手のどこからそんなリンゴを潰せそうなパワーが出るのか気になったが自ら地雷元を踏み抜く気など起きず甘んじて鉄の爪を受け入れる。


 決して彼女の麻で出来た服の袖から見えた胸に気をとられていたわけでは無い。


 そうした理不尽な試験の末俺はこの店で働く事になった。


 決まったことにいつまでもウジウジしていてもしょうがないので俺は一番気になっている事をユーリに聞く。


 「ユーリさん、失礼を承知でお聞きしたいのですが私がこの店で働くとしてお給料はちゃんと出るのでしょうか?」


 俺がお金を必要としている理由については掃除している最中に王宮や勇者の事をぼかしながら説明した…とはいえ俺が掃除している時彼女はお菓子とつまみながら本を読んでいたのでちゃんと聞いていたかどうかは怪しいが。


 「ん?アオイの給料位心配しなくても出せるよ」

 

 彼女は任せなさいとその慎ましい胸をたttttアイアンクローは勘弁してください。


 「騒がしいな…」


 低い声と共に厨房らしき部屋から1人の男性が出てきた。


 「ユーリ……コイツは?」


 初対面でコイツ呼ばわりか…ていうか随分イケメンだな、よく見たらユーリと同じで耳が長い。


 「あぁ彼は…「彼だと!?」」


 先程まで寡黙な感じだった男が急に怒気の籠った雄叫びを上げた。


 その時彼の手に何かの力が集まって行くのを感じる。


 「あー…ユーリさん?あなたの恋人?さんが何か勘違いしてらっしゃいますよ?止めてくれないと死にますよ?主に俺が」


 口調に素が出るくらい焦っていた俺はユーリに助けを求める。


 「は?恋人?あれは父親のシャルアンよ」


 父親って…どうみても20代前半に見えるんですが…。


 「我々はエルフであるがゆえにある程度体が成長したあとほとんど老いる事は無い」


 「そ…そうなんですか!いや~ためになりました!」


 俺はこの窮地を脱するため必死に揉み手をする。


 先程助けを求めたユーリは飽きたようで本を読み出していた。ちくせう。


 「私設楽碧はただの新しく雇ってもらいに来た従業員です。誓って娘さんとそういう関係ではございません‼この先もそうなることは無いでしょうし」


 「ユーリに魅力がないとでも?」


 彼は更に見えざる力を集約する。


 うん、この人めんどくせぇ!


 「いや…そういうわけでは無くですね、私の様な平凡な男と美しいユーリさんとじゃ釣り合わないという意味です!」


 原因である本人は何やら笑いを堪えたような顔をしていてイラッとしたがシャルアンさんの怒気が少し和らいだ気がしたので俺は油断してしまう。


 娘を思う父親に言ってはならぬ一言を発してしまったのだ。


 「ですからおさん!何も心配することは…」


 「お義父・・さんだと?」


 あ…やばい


 そい思った時には既に遅かった。


 「娘はまだ42歳だ!誰にも渡す物かあああああ!!!」


「しれっと娘の年齢をバラすな!!」


 そんなユーリの声を聞きながら俺は意識が薄れるのを感じた。


 

 ユーリって俺と同い年なのな…


 しょうもない事を考えながら凄まじい力の奔流に飲み込まれ遂に意識が途切れた。



 設楽碧第2の人生は娘を溺愛する父親の勘違いによって幕を閉じた。



    ~完~

まだ続きますよ(´ω`)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ