異世界から来た勇者(笑)
よろしくお願いいたします(´ω` )
「おい!三番と五番テーブルの食事はまだか!」
「すいません!ただいまお持ちします!」
「あの!二番テーブルのお客様が…」
「何だ!?早く言え」
「おいしかったまた来るわねって、それと四品目の料理を作った人に挨拶がしたいと…」
「了解」
怒号と喧騒が飛び交うそこはまさに戦場であった。
そして言葉の銃弾を食らわないように厨房の片隅にこの辺では珍しい黒髪をした少年が剣ではなく包丁を握り魔物ではなく鮮やかな色をしたあまり食欲をそそらない魚と格闘していた。
「料理長!魚料理の下ごしらえ終わりました!他の所は間に合っているようなので私は先程の二番テーブルのお客様に挨拶していきます!」
「わかった…行ってこい」
グシオン王宮の城下町にある、シャングリ・ラという料理屋の店長シャルアンさんが許可を出す。
シャルアンさんは人種が多いグシオン王国では珍しいエルフの美丈夫だ。もっと愛想よくすれば店の売上も上がりそうなのに…。
そんな考えを見抜いたのかシャルアンさんはジロッと俺を睨み付けた後手元に魔力の塊を生成していく。
「あっ!早くお客様に挨拶行かなきゃ!」
身の危険を感じ俺はへそそくさと退散する。悪い人じゃないんだけど長生きしてるせいか感がいいし手も早いからおっかない。
店の入り口にはニコニコと優しげな笑みを浮かべた老夫婦が待っていた。
「お待たせして申し訳ありません」
「いえ、此方こそ忙しい中呼び出してしまったようでごめんなさいね」
俺が汗をかきながら息を切らして向かってきたので、昔はかなりの美人だったことがうかがえる品の良いご婦人に謝られてしまった。
汗は冷や汗で息が切れているのは命の危険を感じて心拍数が上がっていただけなのだが…まぁいいか。
「それはそうとこの店の料理は全部素晴らしかったよ‼」
ご婦人の夫であろうこれまたロマンスグレーの渋い男性が少々興奮気味に賞賛を贈ってくる。
「あなた…お店の前なんだからもう少し静かに」
「す、すまない」
妻に叱れてシュンと項垂れる姿に笑ってしまいそうになるが堪える。
「美味しいといってくださるのは私共の喜びでもありますので奥様もどうかその辺で…」
俺の言葉に目を輝かせながら男性は勢いよく顔を上げる。
「そっ、そうだな!私はなにも悪くな…「あなた」…すいません」
どこの世界でも夫が妻の尻に叱れるのは変わらないらしい。
「…でも夫の言ってる事は本当よ?この店の料理は全て美味しかったわ、特にあなたの作ったサバミソは初めて食べたけど良かったわ」
そういってご婦人は美しい一礼をした後、落ち込んだ夫を連れて乗り付けていた馬車に乗り込んでいった。
「またのお越しをお待ちしております」
俺、設楽碧は去って行く馬車にそう呟き見送った。
「お断りします」
そう言った後はそれはもう酷い物だった。どや顔で固まったままのユウト少年に、は?という顔をした王と勇者メンバーとその他大勢。
そしてしばらくそんな時間が進み黙っていられなきなったらしい人物がわめきだした。
「仲間に入れてやろうって言ってるのに何様だてめぇ!」
頭空っぽ代表シンヤ少年である。先程のミスを犯さないように出来るだけ丁寧な対応を心掛ける。
「まずあなた方の勘違いを正しましょう」
一泊置き俺は自分の考えを説明した。
「そもそもおれ…私には勇者御一考と共に行くメリットが無いのです」
辺りを見回し特に反応という反応が無いのを確認し話を続ける。
「皆さんの知っての通り私のステータスは勇者達には遠く及びませんしスキルも有用な物はありません。もし私がついていった場合確実に足を引っ張ってしまうでしょう」
「ごちゃごちゃうるせぇな!いいかr「さらに」」
お前とは話してないんだよシンヤ少年。
「私は勇者達と違い元の世界へは帰りません、両親も既にこの世にいませんしこのままこちらの世界で生きて行くつもりです。」
嘘は言ってない。
実際に俺の親は二人とも他界していた。
白い部屋でのことも信じてもらえないだろうし、転移してきた勇者と違って向こうの世界で死を迎えた俺は多分帰れないから命の危険を犯してまで彼等に協力する義理はないのだ。
俺にだって人並みに情くらいあるわけで、この世界の方々には申し訳なく思うが世の中には適材適所という物がある。
勇者の冒険についていった一般人である俺に待っている結末はシンヤ少年にひたすらイビられた末の無駄死にだ。
若い頃は人を疑う事、自分を省みず人助けをしたこともあったが何十年も痛い目にあってさすがに懲りた。
「あの公園の近くにある湖って自殺スポットとしても有名だったような…」
召喚組のツンとした雰囲気の背の高い少女が呟くと、ウサミミパーカーと俺を庇った少女が顔を青ざめさせ同情するような視線を送ってきた。
どうやら召喚時裸だったことと両親が亡くなったと聞いた事から俺が自ら命を絶とうとしたと勘違いしたらしい。
「でもそんな子なおさら放っておけない…」
大臣に意見してまで俺を庇おうとしてくれた子だ。芯から優しい心を持っているのだろうな…名前は知らないがいつか困った事があったら助けてあげよう。戦闘では役立たずだろうけどね。
だが一刻も早く今の状況を抜け出したい俺は彼女の優しさに気づかないフリをする。
「王様!先程大臣殿が言ったようにこの服とお金を持って去らせては頂けないでしょうか」
方膝を付き誠意を持って懇願する。
「勿論今までの話から私の存在がこの国にとっても良くない事は理解しています。暫く街で働きお金を稼いだのちにこの国を離れるつもりです」
正直王としてはこの言葉を信用することは難しい。
だがハインリヒはこの幼い少年の見た目に反して習熟した思考形態をもつというちぐはぐな存在にある疑念を抱いていた。
…結局王は碧の願いを許諾する。
碧は閉まる門の間からちらっとこちらをうかがっていたが何も言うことなく去っていった。
大臣は近くの官僚と何やら話していたが問いただすことも億劫で玉座に深く座りため息をつく。
すると召喚の時から姿の見えなかった娘のエルセリアがいつの間にか横にたっていた。
「彼は一体何だったのでしょうね」
「わからぬ…勇者達のような力は持っていないようではあったが…」
エルセリアと話しているうちに先程碧に対して覚えた疑念が蘇ってくるのを感じた。
「能力が無いのなら放っておいても良さそうですが万が一他国にバレた時のことも考えておいた方がいいかもしれませんね」
それはつまり設楽碧を殺すことも思案に入れるということでもあった。
あぁ…疑念の正体を今理解した。
同じなのだ。設楽碧と我が娘エルセリアの印象が。
二人の見た目の年齢と中身《能力と考え方》が違う所から感じる違和感が。
王はこの一般人のはずの設楽碧という少年に対してこれ以上無いくらいの警戒心を持つことになった。
その頃、一国の王に警戒されていること何て思いもしない一般人代表設楽碧は自らの言葉通り国を出るためのお金を稼ぐためアルバイトを探していたが身元が分からない黒髪の怪しい子供を雇う所は中々見つからなかった。
異世界生活が始まり早速躓いて途方にくれていると、先程門前払いを食らった大きな飲食店の横に薄暗い小道があるのを見つける。
普段ならそんな怪しいトラブルの元になりそうな場所へは行かない。
ましてやここはモラルの欠片もない異世界である。下手をすると命さえ落とす危険があった。
だが俺は何かに誘われるように薄暗い道を進む。
暫く歩いているとシャングリ・ラと書かれた大きく傾いた看板がついた寂れた何かのお店?を発見した。
近づいてみると入口の扉に張り紙があるのに気付く。
そこにはこう書かれていた。
「従業員募集中」
呼んでいただけてとても嬉しいです(´ω`)