ゲームの説明書はクリア後に読むタイプ #3
主人公を召喚した王国視点です(´ω`)
卍主人公召喚国side卍
「西の国境の砦が陥落寸前…」
「上位ランクの冒険者を魔王の城へ向かわせたがいまだふに連絡はなく…」
「魔物達の凶暴化が進み辺境の町や村から戦力の補填の打診が…」
機能性を重視した書斎で顔色の悪い大臣の絶え間ない報告を眉間に深いシワを刻んだ目付きの鋭い男が聞いていた。
この世界で最も多くの人種が住むグシオン王国を納めるハインリヒ国王その人だ。
「…魔物の被害も甚大ですが今この状況ですら市民達の人種至上主義の思想が増え続けております」
その報告を聞いた私は思わずさらに目付きを鋭くし大臣を睨んでしまう。
「ひぅあっ……」バタっ
もともと王は英雄として前線に立っていたこともあり多少老いて力が衰えたとはいえその体が発せられる強者の迫力は事務仕事は優秀でも戦闘能力が皆無の大臣を失神させるのには充分だった。
「あぁ…またやってしまった」
大臣に八つ当たりのような事をしてしまったことにハインリヒは申し訳なく思うが、それでも自身の苛立ちを抑えることが出来なかった。
いつから、誰が広めたか正確には分からないが魔物の脅威により混迷を極めたこの世で人種至上主義なんて盲目的な考えは頭がおかしいとしか思えない。
人種は数は多いが一部の化け物を除いてステータスが他種族を上回る事は基本的に無い。
身体能力の高さでは獣人や巨人族には敵わないし魔力は悠久の時を生きるエルフに遠く及ばない。
この時代で対立することは間違っている。協力し力を合わせなければ我々は生き残る事は出来ないはずだ。勿論おんぶに抱っこというわけではなく人種からは様々な物資や文化を提供することで魔物との戦いに備える。
そんな感じの同盟申請を他国に何度も打診しているのだが、その度に人種至上のバカ共に邪魔をされている。
床に伸びている大臣を尻目に国王は状況を打破するための案を必死に考える。
「お父様よろしいでしょうか」
鈴がなるような声と共に書斎のドアが勢いよく開けられた。そしてドアの付近には大臣が倒れているわけで…
ゴキャッ「ぶべらぁっ」
そんなこ気味良い音を立てて大臣は壁に飛ばされピクピクと痙攣したあと動かなくなった。哀れ大臣、お前の勇姿は忘れない。
大臣と入れ替わる様に入ってきたのはこれまた豪奢なドレスを身に纏った美女であった。…とはいえ本人はドレスよりも鎧を着たいと言う。そんな誰に似たのか分からない彼女の名前はエルセリア・グシオン、私の娘つまりはこの国の姫である。
「…エルセリアよ、仕事中は入ってくるなといつも言っているであろう」
私は政治とは全く関係ない新たな問題に頭を抱える。
この娘、エルセリアはとんでもない。何がとんでもないかというと全てがとんでもないと言わざるをえない。
生まれてすぐ魔法が使えエルフ以上の潜在魔力を持ち、10歳のときには城を抜け出し高ランクの冒険者が数十人いてなお苦戦する強力な魔物の代名詞であるドラゴンを単独で討伐した。
戦闘能力の規格外さも去ることながら、彼女は現在18歳となりグシオン王国の内政にまで手を出していた。しかも彼女が提案する全ては画期的で実用的な物であった。
そして彼女は容姿にもかなり恵まれていた。流れる金髪は肩あたりで切り揃えてあり、整った顔にある大きな碧色に輝く宝石のような瞳からまるで人形のようであった。
だがその美しい瞳はどこか好戦的に歪んでいた。それでなお美貌を損なうどころか一層に引き立ているのだから不思議だ。
ハインリヒは嘆息する…彼は別に彼女の功績を認めていないわけではないのだ。むしろ誇りに思っている。
彼女が討伐したドラゴンは日々街の安全を脅かしていたし彼女の考えついたとある農法おかげで飢えで死ぬものが格段に減った。
では何が問題なのかと言うと彼はただただ自分の娘が心配なだけなのだ。
エルセリアを産んですぐに無くなったグシオン王妃、つまり我が妻との約束でもあった。必ずエルセリアを幸せにすると。
一国の主としては少し問題はあるが彼は国王である以前に1人の父親であり人間だった。
そんな国王の考えてる事を知ってか知らずかエルセリアは驚きの話を始めた。
「勇者を異世界から召喚する…だと?」
彼女の話を要約するとこうだ。
曰く、グシオン王国創設の時にこの世の魔を打ち払った英雄がいたという。それは絵本にもなっていることなので知っている。だがエルセリアはその英雄が異世界から召喚された勇者だという。そしてその勇者召喚の為の方法も入手済みらしい。
「…その話を信じるとして他国がそれを許すだろうか?」
彼女の言うことが真実だとして、じゃあ早く勇者を召喚して一緒に戦おうなんて単純な話では無いのだ。
勇者を召喚する。それはつまり魔物に対して大きなアドバンテージを得るのと同時に本人にそのつもりが無かろうと他国を脅かしかねない強力な力を得ることを意味する。
「お父様の危惧している事はごもっともですが心配には及びません」
私はつい訝しげな視線を娘に送ってしまうが、エルセリアは気にせず言葉を続ける。
「すでに他国の王とは話をつけてあります。その協定の内容についてはこちらをご覧下さい。」
娘が紙束を私の机に置くがそれには目を向けず極限まで鋭くなった眼光は常にエルセリアを捉えていた。
「他国の王と話はつけてある?お前はいったい何を言っているのだ?…いやお前は何をしたんだ?」
大臣を気絶させた時以上の威圧が彼女を襲っているはずなのだが本人は気にも止めずどこか楽しげな様子だった。
「そちらの書類にも書いてありますが、お父様が懸念されているのは他国とのパワーバランスが崩れることですよね?」
「…そうだ」
ハインリヒは娘の底知れない雰囲気に飲まれそうになりながら答える。
「なら全ての国とは言えませんが我がグシオン王国を含めた5つの主要国全てが勇者召喚を行えば良いのです。」
私はその話に驚愕しながら慌てて書類に目を通す。
そこには国との間の勇者召喚に関する細かい制約と、召喚する勇者が一国に1人の場合その能力によってパワーバランスが崩れることが懸念されたため召喚する勇者の人数は5人に限定、そして勇者召喚の方法と最後の書類にはエルセリアの言葉通り各国の王が国と国との重要な取り決めがされる時に使われる聖印が4つ押されていた。
これを見せられたら同意するしかない。もし私がこれを受け入れなかったら最悪、他国に力の及ばなくなったグシオン王国は魔物や他国の軍の侵攻から身を守れなくなる。滅びだ。
「エルセリアよ…お前は一体何者なのだ?」
この短い時間で一気に老け込んだような錯覚を覚えた私は渇いた声でこの底知れない女に問いかける。
「あなたの愛する娘ですよ お父様」
それから召喚の準備は急ピッチで進められついにその日が来た。
エルセリアの示した方法で行われた儀式は問題無く成功した。…に見えた。
確かに事前に選ばれた勇者である5人組がそこにいた。
召喚自体は上手くいった。だがその場にいる人間の視線は全て何故か裸の6人目の召喚者に注がれていた。
観察してみると本人も困惑したように自らの体を眺めている。
私はちらりと横にいるとんでも姫を見てみると…。
大きく口を開けて固まっていた。
予想外の結果になったがこの底知れない力を持った娘もこんな顔をするのだなとズレた事を考えてニヤついていた。
読んでいただきありがとうございます。