ゲームの説明書はクリア後に読むタイプ #2
本日2話目です!
俺は死んだらしい。
らしいというのはよく解らない相手が宣告されたこともあるが眠るように意識を失ったせいで 死んだ という実感が薄いからだ。
悪い冗談と言われた方が納得しやすいかも知れないが、実際に考えてみると本当に死んだのだと不思議と現状を飲み込む事ができた。
『意外とあっさりしてるね』
「ん?まぁ…何だかんだ40年以上生きてるって事もあるけど体の状態からそこまで長生きは出来ないだろうなって思ってたしね」
加えてこの頭に直接響く声にはなぜか不快感を感じないしこの真っ白な部屋に恐怖や疑問さえ覚える事が無いという不可思議な状況だ。
これで終わりなのだ。納得せざるをえない。
『ふぅん…』
部屋の主であろう相手は考え込むように呟く。
「…あの?」
俺は黙ってしまった相手に声をかけるが返答は無い。
客観的にみると白い部屋で虚空に向かって独り言を話すというかなり危ない絵面なのだが…。
『よし!決めた!お前もあいつらと一緒に送ってやろう!』
「?????」
この人(かは解らない)は何を言っているのだろうか。
『いや実はね、お前のいた世界の他にも色々な世界があるわけよ』
?????
『まあ聞きなって、その中の1つに悪~い魔物に侵略されて滅亡の危機に陥ってる世界があってねそこの神官が今まさに勇者召喚を行ってるんだ』
友人の趣味に付き合った時、そういうゲームや異世界召喚物の小説をかじった事もあるがまさか…。
「俺が勇者になる…のか?」
『は?違うしお前みたいな一般ピーポーが勇者とか勘違い乙』
「・・・」
なんだろう…最初は神様かそれに近い何者なのかも知れないと思っていたが、うん違うな。こんな俗世間に染まった喋り方をする神様がいてたまるか。
『いやいや俺神様ぞ?』
「・・・」
『まぁいいや、それでね勇者になるべく呼ばれるのはお前が死んだ公園にいた5人組なわけさ』
そういえば意識が無くなる前に人影を見た気がしたな…。
『彼等は選ばれてあの公園に異世界を救うべく集い召喚される。運命的だねぇまるでおとぎ話の主人公達だ』
どっかの誰かさんと大違いとでも言いたげに楽しそうな声が頭に流れ続ける。
もちろん自分の事位理解しているさ…学生の頃は様々な知識や資格を得て順調に人生を歩んでいたから頑張れば何でも出来るんだと勘違いしていた。
けれどそれはただの幻想でしかなく頑張ってもどうしようも無いことはいくらでもあった。
人並みに勉強し人並み就職し人並みに成功はしたが同時に他人からの悪意も挫折も諦めも味わった。別に俺が不幸だなんて言わない。俺以上にきつい立場の人間なんてざらにいる。
普通なのだ。良くも悪くも。
普通で平凡で長所といえば広く浅い知識と趣味で取得してきたちょっとした資格位。
『そうだねぇお前はどこにでもいるようなつまらない人間だ。間違っても英雄になるような器じゃないね』
「そんなことは俺が一番…」
暴言を吐かれているのになぜか声の主に悪感情を抱けない自分に苛立ちながら言葉を続けようとするが…。
『だからお前を選んだ』
頭に響く声に遮られる。
『勿論勇者御一行の近くに偶然居合わせたというのもあるけどそれはきっかけにすぎない』
『お前の人生を見てお前の生き方を見てお前の在り方をみて俺が選んだ』
俺は相手の言葉をゆっくり咀嚼し理解する。それはつまり…。
「俺が勇者達のオマケとして異世界に送られるということか?」
『そういうことだね理解が早くて助かるよ。お前をこれから勇者達の召喚にねじ込む。もともと5人だけを召喚する予定みたいだしね』
ちょっと待ってほしい、それはつまり俺は向こうからしたら異物として召喚されることになる。問題にならないのか?食品の異物混入なんかはえらい騒ぎになるけど?。
『そんなん知らないよ。俺はただ勇者でもない一般人が異世界に飛ばされたらどうなるか面白おかしくみいだけだし』
「うん、それ神様のセリフじゃないよね?神様っていうか悪魔だよね?別に俺はわざわざ異世界なんかに行かなくてもいいんだよ?普通に転生させてくれればそれでいいんだよ?」
神様(仮)の言葉に動揺した俺は思わずまくし立てる。
『何か勘違いしてない?』
瞬間場の空気が変わった気がした。
『俺は選んだって言ったんだよ?別にお前の意見を求めてるわけじゃぁ無いから』
なぜか鳥肌と寒気が止まらない自分の腕を抱いていると、体全体が輝きながら薄くなっていくのに気づく。
『安心しなよ勇者達ほどのチートはあげないけどちょっとした特典位はあげちゃうから』
神様(仮)の雰囲気は先程までの楽しげなものに戻っていたが俺はそれに答えることが出来ない。声が出なくなっていたのだ。
『異世界で新しい人生を好きに生きればいい。以前のように真面目にするのもよし、悪人に染まるのもよし、なぁに気にすることは無いこれから行くのは剣と魔法があり魑魅魍魎が蔓延るモラルなんて存在しない世界だ。』
意識が薄れていく
『俺はただそれを見て楽しむだけさ』
その言葉を聞き設楽碧は消滅した。
白い部屋には何も残らずただ主ある者の声だけが響いた。
『さぁ今回の暇潰しはどれだけもつかな』
クスクスと楽しげな笑い声
白い部屋にはなにもない。
そして設楽碧は召喚された。荘厳な雰囲気の祭壇、肩で息をしている大きな杖を持った神官達、豪奢なドレスを身に纏った美女と同じくかなり高価であることが見て解る服と王冠を被った鋭い目の男性、そして学生服を着た5人組。
だがその場にいる全て人間の視線はただ1人に注がれていた。
視線の先には先程まで神様とおぼしき相手と話していた設楽碧がいた。だが彼は周りの視線に気づかずただただ自分の変化に呆然としていた。
彼は、中年であったはずの設楽碧は14才の頃の姿でここにいた。……裸で。
読んでいただきありがとうございます!。