プロローグ
見切り発車のうえに拙い文章ですが楽しんでいただけたら幸いです。
卍プロローグ卍
とある田舎のとある公園、時は深夜2時を過ぎた頃ヨレたツナギを着たどこにでもいそうな風貌のうだつの上がらない中年がベンチに腰掛けていた。
「・・・はぁ」
男は何をするでも無く覇気の無い濁った目を虚空に向けたままため息を吐いている。
深夜の公園にいる姿は確実に不審者と言われてしまうであろう中年は何故か今までの人生を夢想していた。
学生時代、自分に知識が身に付くのが楽しく勉学を愛しそれなりに有名な大学へと進学した。その後根が真面目な彼は勉学を疎かにすることもなく人並みに友人と遊び、その繋がりで様々な趣味、スポーツ、格闘技等に手を出すこととなった。
彼は元々自分の身になることが好きで友人との付き合いから始めた柔道や空手や剣道ではそこまで高位ではないが段を取り、その他にも実家が食堂の関係で2年の就業経験が必要な調理師免許を取得したりと…なんというか資格を取ること自体が趣味のようになっていた。
大学卒業後、成績もよく気立ての良い彼は大手の保険会社へとなんの問題もなく就職することが出来た。
そこで彼は持ち前の真面目さ、勤勉さゆえに得てきた知識や能力を存分に発揮し順調に業績を伸ばしていった。
だが世は彼に対して誠実であることは無かった。
順風満帆と言って良い人生を歩んできた彼が28歳となった頃彼の周り、正確には彼が作成した書類やデータ等に小さなミスが見つかるようになった。
上司は最初の内は珍しいこともあるなと笑って許してくれていたがそのたびたび起こる小さなミスが1週間、1ヶ月と続くうち上司が笑って許すなんてこともなくなり、彼はよく叱られるようになった。
彼はその性格から完璧に仕上げたはずの仕事に不備が見つかり毎日のように叱咤を受ける事を深く悩んでいた。
そんな難しい話では無い、彼の業績を妬んだ頭の悪い社員が細工をしていただけである。
言い方は悪いが「出る杭は打たれる」人の世ではよくある話だ。
だが彼は真面目な性格に加えお人好しでもあった。嫌がらせ…というか最早犯罪と言っても過言でもない事をしでかした社員は頭は悪いがこと隠蔽に関しては秀でていたことも気づかない要因となっていた。
結局彼は頭の悪い社員の行為に気づく事無く30になった時に職場を辞する事となった。それは様々な不運が重なったゆえの結構であったが最終的に辞表を書く判断を下したのは彼の判断だった。
彼は許せなかったのだ、細工のせいとはいえ自分のミスで周りの人間に迷惑を掛け続けてしまった事が。
その後とある小さな運送会社に再就職する事となった彼は再出発という事で張り切っていた。
しかし彼を待っていたのは以前と比べるまでもなく劣悪な所謂ブラック企業と呼ばれる環境での苦しい労働だった。
一般的な労働時間は意味をなさず毎日のように残業(勿論サービスである)、休日の出勤など当たり前、そして36歳となった彼は大型免許を取得しておりそれを知ったブラック企業での上司はさらに多くの仕事を彼に宛がった。
39歳になった彼は体を壊し入院した。
入院中、上司からあっさり解雇された事を告げられた。
結局彼の手元に残ったのは僅かばかりの金銭だけで恋愛にもあまり積極的では無かった事もあり伴侶はおらず1人であった。
そして物語は冒頭へと戻る。退院した彼は工場で働きだしたがそこも以前の黒い会社と似たり寄ったりだった。現に今のところ2ヶ月連続出勤だ。激しい運動が出来なくなった彼は肥え近いうちにまた体を壊す、そんな予感さえ冷めた頭で他人事の様に考えていた。
朝早くの出勤のせいで常に眠気に襲われていた彼だったが今日は特にその傾向が強いと感じていた。そのくせなぜか若干体温は高く頭自体は冴えてるというなんとも不思議な状態だった。
「なんで今更昔の事なんて思い出してるんだろうな…」
「これじゃぁまるで…」
うつらうつらとまるで微睡んでいるような気分だった。
そして…その次の言葉を彼が紡ぐ事は無かった。意識を手放す瞬間彼は暗い公園の中間に5人位の人影を見た気がした。
あぁそれと彼がもし言葉を続けていたらこう言っていただろう。
「これじゃあまるで…」
「走馬灯の様だ」…と
出来るだけ毎日投稿する予定です。