1ー1・アタシを見て笑う奴はぶん殴る!
ガサガサと音を立てる草や茂みを抜けながらアタシは前へと進む。
「近くに気配はするんだけどな。・・・・・・人じゃない気配だけど」
十六夜と新月に手をかけ何時でも抜ける様に体勢を整え注意深くなるべく音を立てない様に進む事にしよう。
しかしあれだね?気配を殺しながら進むアタシってまるで暗殺者みたいだね?服も黒いぴったりとしたボディースーツだし。
因みにアタシの今の服装だが、黒いボディースーツに災獣の素材から造られた手甲とブーツ、アーマーを着けて同じく災獣の素材から造られた口と鼻を被うマスクを着けている。
・・・・・・うん。自分の事ながら怪しさ抜群だね。
でもこの装備って災獣に挑むには持ってこいな装備なんだよ?
何故なら災獣の中には毒ガス、ゲーム風に言うならポイズンブレスを吐く奴もいる。
このポイズンブレス、普通のガスマスクでは防げないが災獣の素材から造られたマスクだと防げる。
それ故に災獣と相対する者は国から災獣装備一式が贈与される。
ってアタシは誰に説明してるんだろ?
「・・・・・・来る!」
先程の気配が動き出した!
数は分からないけど複数の気配がアタシの方に向かって近付いてくる。
バキバキと草木をへし折る音を立てながらアタシに近付いてきたのは豚面の二足歩行の化け物・・・・・・オークと呼ばれる魔物だった。
ゲームとかだとかなり力が強い魔物で女を拐って犯し子を産ませたりするけど・・・・・・アレ?ひょっとしたらアタシ貞操の危機?
「オークで良いのかなコイツら」
アタシは十六夜と新月を引き抜き構える。
オークらしき魔物の数は十匹。
ちょっとキツイかな。
アタシは身体強化を発動させ何時でも仕掛けられる様にオークの集団を見る。
だが、オーク達はアタシをじっと見詰めるだけで動こうとしない。
そして、
「・・・・・・フッ」
とアタシの身体を見て鼻で笑いやがった。
・・・・・・良い度胸だ豚野郎ども。
確かにアタシは発育不良の幼児体型だ。
それは事実だし、否定の仕様がないからアタシもそれは認めよう。
だが、今だかつてアタシの身体を見て笑った奴は無事だった者は居ない。
何故ならそんな不届き者は誰が相手だろうがアタシが懇切丁寧に全力でぶん殴ってきたからだ。
「アタシ(の身体)を見て笑った奴は誰だろうがぶん殴る!いや、お前らはぶっち斬る!!!」
【????サイド】
森にオークの集団が現れたという報告を聞いて俺は我が虎人の国の戦士団20人を率いてオーク討伐に向かったのだが、その光景を見た俺は自身の正気を疑った。
何故ならば俺がいる場所から少し離れた所で幼き人族の女の子がオークどもを切り刻んでいるからだ。
「王よ。どうやら私は疲れすぎて意識が朦朧としているようです。私は帰らせて頂きます」
俺の隣に立つ我が一族でも随一の実力を持つ女戦士にして我が右腕と言えるクラスタ・ランファがくるりと向きを変えその場を立ち去ろうとする。
「待てクラスタ。幼き人族の子がオークどもを切り刻んでいる光景ならば俺にも見えているから安心しろ」
「お願いライデル。帰らせて。あんな小さな女の子がオークを倒しているのを見たら虎人の戦士としての誇りが砕かれるのよぅ」
俺がクラスタの肩を掴み引き止めるとクラスタは涙を浮かべながら俺の方を向く。
いや、気持ちは良く分かるがな。
オークは我ら虎人の戦士でも一対一で勝つには少々厳しい。
それを人族の幼い女が圧倒しているのだ。
俺とて王で無ければ我が目を疑い帰りたくなるだろう。
「しかし、あの娘が持つ剣はデルフォニアでは見たことが無い剣だな?」
「ですね。それにオークを単独で圧倒する人族の剣士は少なくともこの辺りには居ない筈です」
ならば答えは一つしか無いか。
「「異界の迷い人」」
俺が呟くと同時にクラスタも呟く。
どうやら俺と同じ答えに辿り着いたようだな。
「我が精鋭達よ。この森の平穏を守るのが我らの使命。勇敢な少女を護りオーク共を殲滅せよ!」
『オオオオオオオオッ!!』
俺の号令に我が精鋭達が雄叫びを上げる。
さあオーク共。この森の平穏の為に消えて貰うぞ。
【????サイド・エンド】
『オオオオオオオオッ!!』
「うわっ!?何?」
オークの一体を仕留めたアタシは突然上がった雄叫びにびっくりして雄叫びが聞こえた方を見る。
それと同時に茂みから十数人の戦士が飛び出してオーク共に襲いかかった。
「驚かせて済まないな。言葉は通じるかな?」
「えっと、言葉は通じるけど、あんたら誰?」
戦士達がオーク共と戦い始めると同時にマッチョで美形な兄さんと胸がでかくて長身の美人さんがアタシに声をかけてきた。
「俺はライデル・ティガード。亜人達が住まう国の王の一人だ」
「側近のクラスタ・ランファと申します」
「アタシは五月雨うずら。って言うか亜人?というより何で日本語話せるの?」
そうこの二人アタシに日本語で話しかけてきたのだ。
「その理由は後で説明しよう。クラスタ、この娘を任せたぞ。俺はオーク共を殲滅してくる」
ライデルと名乗ったマッチョな兄さんが背中に担いだ大剣を手に取るとその雰囲気が一気に変わる。いや、変わったのは雰囲気だけではない。人から虎の獣人へとその姿も変わっていく。
良く見ればオーク共と戦っている戦士達も虎の獣人に変わっていた。
「うにゃ!?」
思わず驚くアタシにクラスタと名乗った美人さんはクスクスと笑い、
「驚かれましたか?我々亜人はもう一つの姿を持っているのです」
と説明してくれた。
その間にも虎の獣人と化したライデルと戦士団はオーク共を倒していく。
そして、瞬く間にオーク達は全滅した。
「さて、説明の前に尋ねよう。君はニホンと呼ばれる国に住んでいた・・・・・・で間違い無いか?」
オークを殲滅して戻ってきたライデルの言葉にアタシは驚いた。
「な、なんで?」
「ふむ。その反応だと間違っていないようだ。我が城にて茶でも飲みながら話そう。クラスタ、この者を我が国ティガードにお連れしろ」
「御意。サミダレウズラ様、申し訳ありませんが私達についてきていただけますか?」
「・・・・・・オッケー。ついていこうじゃない」
アタシは何故ライデル達が日本を知っているのかを知る為にライデル達についていくことにした。
ま、どうせ行く当ても無いしね?
五月雨うずら(16)
身長139センチ
体重45キロ
装備・災獣素材のアーマー・手甲・レッグガード・マスク・対衝撃ボディースーツ・短刀【十六夜】【新月】
単一能力【身体強化】
亡き父親から【身体強化】を受け継ぎ災獣狩りになった高校一年の女の子。
柔軟な思考かつとことん前向きな性格をしている為、災獣の呪いで異世界に跳ばされても然程悩まなかった。
つるーん・すとーん・ぺたーんな幼児体型が悩みの種。
但しまだ成長期が来てないだけと頑なに信じている。
うずらの身体を見て笑う者はうずらが懇切丁寧に全力でぶん殴る。
身体強化を受け継いでからは無意識に発動してぶん殴る為、注意が必要。
趣味はぬいぐるみ集め、父子家庭なので家事は得意と女の子らしい所もある。