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07 十日の滞在~デハ出発




 結局一行は、メッサミリアの城で十日間過ごした。

 ルハスは初日に疑似治癒を覚え、おかげで果てしない訓練を経験することになったり、セラフィアが剣と魔術を使える石人形ゴーレムと訓練して、自分以上に上手に『魔術斬り』を使う石人形ゴーレムに怒ったり、レナが飛行できる魔獣と訓練して付与魔術が使えず苦戦したり、といろいろあった。

 カルスは、メッサミリアと直接訓練していた。

 どうやらメッサミリアはカルスと魔獣をよほど戦わせたくないらしかった。


 まあ、いろいろとあったが、結果、レナとセラフィアの二人は魔獣をメッサミリアから譲られることになった。

 魔獣の種類は、レナとセラフィアを最初にさらっていったふわふわの毛をした四足魔獣『気高き魔狼タイロン』だった。

 未だヨチヨチ歩きしかできない赤子の魔獣である。

 幼い頃から、主人の魔力に触れさせることで、主従の関係を成立させるという、もっとも基本的なやり方らしい。

 レナは魔術士なのでもちろん魔力を供給できるが、セラフィアも『魔術斬り』が使用できることから分かるとおり、魔力の供給には問題がなかった。

 魔力量によって差が出るのではないかとカルスなどは思うのだが、メッサミリアの言うところでは、


「魔力を意識的に供給するかどうかより、どれくらいの時間一緒にいられるかのほうが重要なのじゃ。主人の魔力はかってにそやつらが憶えてしまうのじゃ」


 とのことだった。

 実戦にはまだとても使えない魔獣だったが両者ともに大喜びであった。

 セラフィアのほうは、魔獣と共に戦った伝説の剣士というやつが過去にいるらしく、それに将来の自分たちを重ねて、夢見がちな乙女になっている有り様だった。

 まあ、レナも状態としては似たようなものだったが。

 彼女たちは魔獣を腕に抱えたり、服の中にいれたり、頭の上に置いたりと、どうやって運ぶのが一番良いのかを試している。

 赤子魔獣のペースで歩いたりすると、日が暮れても次の町へ行くことなどできない。というか、数日かけてもまったく到着しないだろう。

 なので、赤子魔獣をどうやって運ぶのが一番いいのか、は彼女たちにとって重要命題となっていた。


 さて、ルハスである。

 この少年も実はメッサミリアから贈り物をもらっていた。

 魔道具である。

 腕輪である。魔術の増幅機能がある腕輪で、使用には魔力を用いる。

 杖などとは異なり、自分の魔力をもちいて増幅するのだ。

 これの良い点は、時間をまったくとられないということである。

 乱暴に言えば、詠唱の代わりを魔力で行うということである。

 魔術に魔力をこめる量は、ほぼ時間に比例する。

 詠唱が長いほうが、威力は高いというのは、これが理由だ。

 もちろん、これだけではなく、もっと複合的な意味があるとされているが……。

 杖は長時間の詠唱になじませて、増幅させるという機能があるが、この腕輪はいっさいそれを省く代わりに魔力を消費するというものだ。

 杖には魔力を抑えるという働きもあるので、同じ増幅装置でもまったく異なるものということになる。

 ルハスはこれを受けとり――感情ではなく、理性で判断したようだ――、杖を手に持つことはなくなった。

 そもそも、カルスの戦闘を真似ていたので、杖を使うことなどまったくなかったので、腕輪がなかったとしても、杖をもたなくなるだけで、戦力は向上していることだろう。

 この腕輪を身につけたことで、ルハスはより威力型へと戦い方が変わっていくことになるだろう。

 最後にカルスである。

 カルスは何ももらえなかった。

 カルスが「俺にも何かくれ」と言うと、


「なんで、わらわがヴィル・ティシウスの弟子に施しを与えねばならんのじゃ。断る!」


 と拒絶された。

 メッサミリアのストレス発散につきあったのは、カルスである。

 メッサミリアがもっともお世話になったのは、カルスである。

 なのに、この仕打ち。


「だいたい、そなたはわらわの魔術を盗んでおる。それだけで、充分すぎるのじゃ」


 ばれていたらしい。

 カルスは雷系の魔術の習得に成功していた。

 光・風・雨の攻撃魔術に多少の付与魔術を混合させるという面倒くさい魔術構成なのだが、カルスは身をもって何度も体験することで、分析し、勘を掴んだのである。

 こうして、大魔術士メッサミリアの城から四人は旅立つことになった。


 飛竜ワイバーンで街道まで運んでもらい、四人はメッサミリアを見送って、いつものように歩きはじめる。

 セラフィアの肩の上に、赤子魔獣。

 レナの頭の上に赤子魔獣がそれぞれ乗っている。

 ここが一番落ち着く場所ということらしい。

 ちなみに、セラフィアの魔獣が「タロウ」という名で、レナの魔獣が「オオマル」という名に決まった。

 聞きなれない音の並びだが、何か謂れがあるらしい。

 本人たちが納得しているのなら、周りが何か言うことでもない。


「いよいよパール国ね」


 セラフィアが言う。


「うまくいけば、五日もしない内にそうなるだろうな。メッサミリアがけっこうサービスしてくれたから」


「いやあ、楽しみですねえ。今度はいったいどんな大魔術士が出てくるんでしょうか」


「あのな、大魔術士と呼ばれる魔術士に会うことなんて、普通はないんだよ。そんな非常識なことを言うな」


「でも、私たちは会っている」


 ぼそりとレナ。


「そうですよ、師匠。諦めましょう。大魔術士たる僕がいるかぎり、向こうから大魔術士が寄ってくる運命なのです」


「パール国って大魔術士はいるの?」


 比較的理性的な質問がセラフィアからなされた。


「一人だけだな」


「へえ、だれ?」


「だれって、俺の師匠ヴィル・ティシウスだよ」








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